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卵子も精子も使わずに「発生後2週間のヒト胚モデル」作成、構成要素も完全再現...倫理問題クリアで不妊治療に貢献か
この人工ヒト胚は、子宮内で14日間成長した典型的なヒト胚が持つ、すべての構成要素を再現しているといいます。つまり、この日齢で形成されるべき胎盤や卵黄嚢といった構造物が、サイズや形状も適切に、正しい位置に形成されたそうです。さらに、妊娠検査の判断基準となるホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピン、hCG)を作る細胞も存在し、実際に妊娠検査キットで陽性反応となるのに十分な量のhCGを分泌していました。
また、本研究では、発生から10日後に当たる段階で胚が正しく胎盤形成細胞に包まれていないと、卵黄嚢などの内部構造は適切に発達しないことも示唆されました。ハンナ教授は英ガーディアン紙の取材を受け、「妊娠の失敗の多くは、大半の女性が妊娠に気づかない発生初期に起こっています。多くの先天性欠損症はこの時期の胚で起きていることも知られていますが、発見はずっと後になる傾向があります。私たちのモデル(人工ヒト胚)は、発生初期での適切な発達に必要な生化学的、機械的シグナルと、発達がうまくいかない原因を明らかにするために使用できるでしょう」と話しています。
妊婦や胎児のほか一般患者への応用も視野に
人工ヒト胚は、倫理問題をクリアしながら体の器官の初期形成を観察したり、遺伝性疾患や発達異常に起因する妊娠の不継続について知見を集めたりすることに役立つと期待されます。ただし、作成の失敗率が99%である現在、初期流産の防止や体外受精の成功率アップにつなげるには、しばらく時間がかかりそうです。
そのうえ、人工ヒト胚の作成成功率が上がったとしても、実験室で培養しているため、胚が子宮内膜に着床するステップは再現できていません。人工ヒト胚を使えば、妊娠不継続の原因のすべてが解明できるということにはならないでしょう。
一方、胚の薬物に対する反応という面では大いに期待できます。医薬品の臨床試験では、妊婦はほとんどの場合除外されます。一般的な医薬品でも、胎児や母親が妊娠中に摂取した乳児への影響は、大半が作用機序(薬が効果を及ぼす仕組み)から勘案されています。人工ヒト胚を使えば、直接的に薬物の副作用を評価できるかもしれません。
さらにハンナ教授は、人工ヒト胚の研究成果を、妊婦や胎児だけでなく一般患者にも応用することも視野に入れています。たとえば、患者の皮膚細胞を処理して多能性幹細胞を作り、さらに人工ヒト胚を作成して1カ月ほど育てれば、患者に移植したい臓器の細胞のもととなる器官が発達するだろうと言うのです。人工ヒト胚をドナーとして自家移植すれば、拒絶反応などのリスクが少ない移植が期待されます。もっとも、ハンナ教授は「ただし科学者たちは、人工ヒト胚を生育させる前に、脳や神経系が発達しないように遺伝子に手を加えて微調整するだろう」と注釈を加えています。