コラム

DNA解析から縄文人度の高い地域を探れば、肥満や喘息になりやすい県民も分かる?

2023年02月28日(火)11時25分
日本地図

渡来人由来のゲノム成分の比率が最も高かったのは、最初に上陸したと考えられる九州北部ではなく……(写真はイメージです) FrankRamspott-iStock

<東京大学大学院理学系研究科の渡部裕介特任助教と大橋順教授の研究により、縄文人と渡来人の混血度合いには地域差があることが分かった。最も縄文人由来のゲノム成分の比率が高かった地域は? 渡来人と比べてどんな特徴がある?>

「自分はどこから来たのか」について、興味を持つ人は少なくないでしょう。最近の一般向け遺伝子検査では、疾病リスクや体質だけでなく、祖先の特徴や民族学的なルーツを知ることができると謳っているものもあります。

2022年ノーベル生理学・医学賞は、約4万年前に絶滅したネアンデルタール人の骨片のDNAを解析して現生人類の起源に迫った、独マックスプランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授が受賞しました。古人類学にDNA解析を用いる手法は、近年は日本人の成り立ちの解明にも用いられています。

現代の日本人は、主に縄文人と弥生時代の渡来人(弥生人)をルーツにしています。みなさんも「縄文人は彫りが深く、渡来人は平坦な顔立ちだった」などの特徴を耳にしたことがあるかもしれません。では、縄文人と渡来人の混血の程度は、どの地域でも同程度だったのでしょうか。

東京大学大学院理学系研究科の渡部裕介特任助教と大橋順教授は、現代日本人の遺伝情報から縄文人に由来する遺伝的変異(縄文人由来変異)を検出する方法を開発し、縄文人と渡来人の混血の程度には地域差があることを示しました。さらに、縄文人と渡来人は、それぞれの生活様式に適応した表現型(見かけや特徴)を持っていたことを明らかにしました。研究の成果は、23年2月18日(米国東部標準時)に米科学誌「iScience」オンライン版に掲載されました。

日本人のルーツと、DNA解析を用いた最新の「日本人学」を概観しましょう。

弥生時代の開始時期は諸説あり

日本列島にヒトが居住を始めたのは約3万8千年前と考えられています。約1万6千年前に縄文時代が始まると、土器を作り定住化した縄文人は日本全土に広がり、狩猟採集民でありながら非常に高い人口密度を達成しました。

弥生時代は、渡来人によって稲作文化がもたらされ、金属器が使用されたことが特徴です。始まりは地域によって異なりますが、長らく紀元前5~4世紀頃とされてきました。けれど、国立歴史民俗博物館は03年、放射性炭素を使って弥生土器の付着物を年代測定し、紀元前10世紀とする説を提唱しました。現在は、紀元前10~8世紀と考える研究者が多いものの、開始時期については依然として意見は分かれています。

「日本列島人は、狩猟採集民族だった縄文人の系統と、日本列島に稲作文化をもたらして定住した渡来人の系統の混血によって成立した。列島の両端に居住するアイヌと沖縄の人たちは、渡来人との混血が少なかったために縄文人の遺伝的要素を強く残した」とする「二重構造モデル」は、東大名誉教授の自然人類学者、埴原和郎博士が形態研究に基づいて91年に発表した仮説です。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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