コラム

今年も侮れないイグノーベル賞と、社会実装されそうな2つの研究

2022年09月27日(火)11時20分
泳ぐカモの親子

カモの泳ぎ方から学べる意外なこととは?(写真はイメージです) dennis glosik-iStock

<つまみを回すときに何本の指を使っているか、子ガモが隊列を組んで泳ぐのはなぜか──2022年の受賞研究から生活に応用される可能性のある2つの研究を紹介する>

毎年10月に受賞者が決定するノーベル賞とほぼ同時期に、「裏ノーベル賞」とも呼ばれるイグノーベル賞の受賞者が発表されます。本年も16日(日本時間)に、第32回イグノーベル賞授賞式がオンラインで開催されました。

イグノーベル賞は、ノーベル賞のパロディ版として1991年に始まりました。ノーベル賞の科学3分野(生理学・医学、物理学、化学)にこだわらず、毎年ユニークな分野(昆虫学賞、輸送学賞など)を設定し、賞を与えています。

時には下ネタを重視したり、「水は記憶をインターネットで伝達できる」といったトンデモ研究が受賞したりした歴史があるため、「お笑い科学イベント」と見られがちです。けれど、賞の創設者で科学ユーモア誌「Annals of Improbable Research」の編集者であるマーク・エイブラハムズ氏は、「最初は笑えるが、その後考えさせる科学研究に贈る賞」と説明します。一風変わった想像力に富んだ研究を讃えたり、時には皮肉を交えて表彰したりして、人々の科学への関心を高めることが目的です。

たとえば、2011年に受賞した滋賀医科大学と医療ベンチャー企業らが開発した「わさび警報装置」は、わさびで眠っている人を起こす装置です。最初は「なにそれ」「芸人の罰ゲームに使ったら映えそう」などと笑ってしまうかもしれませんが、「火災などの緊急時に、非常ベルが聞こえない聴覚障がい者に危険を知らせるために開発された」と知れば、「社会実装が望まれる技術だ」と納得します。

今年の10部門の受賞研究から、社会実装につながりそうな2つの研究の内容と意義を深掘りしてみましょう。

16年連続で日本人も受賞

今年の受賞は、「ロマンチックな出会いがあり、互いに惹かれていると感じるとき、心拍数はシンクロするという証拠の発見」(応用心臓学賞)、「法律文書の理解を不必要に困難にしている原因の分析」(文学賞)、「便秘がサソリの交配に影響を与えるかどうか、またどのように影響するか」(生物学賞)、「化学療法を行う際アイスクリームを使用すると副作用が減少することの証明」(医学賞)、「つまみを回す際、最も効率的な指の使い方の解明に挑戦したこと」(工学賞)、「古代マヤの土器に描かれた浣腸儀式への学際的アプローチ」(美術史賞)、「子ガモが編隊を組んで泳ぐ方法を理解しようとしたこと」(物理学賞)、「ゴシップ好きがいつ本当のことを言い、いつ嘘をつくべきかを判断するためのアルゴリズムの開発」(平和賞)、「なぜ最も才能のある人ではなく最も幸運な人が成功することが多いのかを数学的に説明したこと」(経済学賞)、「衝突試験用にダミーのヘラジカを開発したこと」(安全工学賞)でした。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story