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マジックマッシュルームをアルコール依存症の治療へ 転用の歴史と問題点
オレゴン州では20年11月、州保健局によるシロシビン治療の承認をめぐる住民投票が実施され、賛成多数で可決。これにより、オレゴン州全域で認可された施設でシロシビンを取り扱うことが合法となりました。それ以前に、ワシントンD.C.やカリフォルニア州、ミシガン州の一部の都市はマジックマッシュルームを合法としていましたが、州単位でシロシビンの使用を認めたのはオレゴン州が初です。
マジックマッシュルームの治療への利用は、うつ病以外でも研究が進んでいます。21年にイェール大の研究チームによって、シロシビンを1~数回服用することで慢性的な頭痛に2週間の持続的な治療効果を与える可能性が示唆されました。期間中の頭痛の頻度は半減し、痛みのひどさや頭痛がもたらす機能障害も30%軽減するという結果が得られました。
日本では08年から10年にかけて、高崎健康福祉大の江口文陽教授らの研究チームによって、マジックマッシュルームの一種であるヒカゲシビレタケ抽出物の強迫性障害の治療に対する効果が基礎研究されました。けれど、国内の研究は欧米と比べて消極的に見えます。
日本での臨床研究は現状困難
マジックマッシュルームの臨床研究のネックとなるのは、①試験を行う承認を得ること ②薬物の入手 ③試験のプロセスの難しさです。
インペリアル・カレッジ・ロンドンで16年に行われたうつ病に関する実験を率いたロビン・カーハート・ハリス博士は、最初に臨床試験を行う際に所属施設内の倫理委員会に許可をもらうのに1年、試験の安全性を確保するのに半年の時間を要したと話します。
さらに困難だったのは役所手続きで、シロシビンを入手するにはライセンスが必要なため、薬物の入手には2年半の年月がかかったそうです。また、市場で流通している違法ドラッグのカプセルを使うわけにいかず、特別なプロセスを経たため、被検者一人あたりの薬価は1500ポンド(当時のレートで約24万円)に及びました。新規参入には敷居が高い研究と言えるでしょう。
試験プロセスの難しさは、今回のアルコール依存症に対する研究でも見られました。臨床試験では、被験者も医療スタッフも2グループのうちどちらに目的の薬が割り当てられたか分からない二重盲検試験を行いました。けれど、シロシビンを投与された人の多くは幻覚症状など特有の反応を経験したので、9割以上がどちらの薬を投与されたのか推測できてしまいました。ボーゲンシュッツ所長は、「幻覚剤を治療に転用する研究では、適切な偽薬がないことが課題だ」と語ります。
これらの問題点から、日本でのマジックマッシュルームの臨床研究は現状は難しいと言えます。けれど、ハリス博士は「一般的な抗うつ薬の研究は行き詰っているので、シロシビンが抗うつ薬として市場に出回ることは不可避だ」と熱弁を振るいます。専門家でなくても、いざというときに自分が選択するための知識は持っておきたいですね。
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