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マジックマッシュルームをアルコール依存症の治療へ 転用の歴史と問題点
マジックマッシュルームは、中世のアステカ帝国(現在のメキシコ)ではシャーマンが神の御告げを授かるための「神聖なキノコ」として丁重に扱われました。摂取したシャーマンはトランス状態になったため、現地では「テオナナカトル(神の肉)」と呼ばれました。
日本でのマジックマッシュルームの最も古い記述は、平安時代末期の『今昔物語』です。山で道に迷った女たちが見つけたキノコを食べたところ、踊りたくて仕方がなくなったという逸話が描かれています。当時はこのようなキノコは舞茸(現在の食用のマイタケとは異なる)、踊茸と呼ばれました。江戸時代には、食べた一家全員が一晩中笑い続ける笑茸、酒に酔ったようになって高いところに登りたくなる登茸なども記述されています。
西欧にマジックマッシュルームの存在が広まったのは、20世紀半ばになってからです。50年代にアメリカの菌類研究者のロバート・ゴードン・ワッセン博士による中米の調査で「幻覚を起こすキノコ」が発見され、西欧で知られました。その後、LSDの研究・開発で名高いアルバート・ホフマン博士が幻覚成分を特定し、シロシビンとシロシンと名付けました。
60年代になると、マジックマッシュルームはLSDと共に「サイケデリック(幻覚効果のある薬物を服用した時に見える幾何学的なパターン)」の原動力となり、ヒッピー文化やドラッグカルチャーに影響していきます。濫用されたことで、71年にシロシビンそのものは向精神薬に関する条約で規制されましたが、成分を含む植物は国際規制されず、取り扱いは各国の判断に任されました。
日本では90年代に合法ドラッグとして流行しましたが、01年に人気俳優がマジックマッシュルームを摂取して入院したことが騒ぎとなり、02年に麻薬原料植物として規制対象となりました。
合法化の動きも活発化
マジックマッシュルームに対する風向きが変わったのは、2010年代になってからです。
マジックマッシュルームとうつ病に関する研究で世界をリードするインペリアル・カレッジ・ロンドンは16年に、少なくとも2種類の抗うつ剤を服用しても症状が改善されなかった重度のうつ病患者の症状をシロシビンが緩和させることを発見しました。マジックマッシュルームの2回分の服用にあたるシロシビンは、うつ病と診断された12人の被験者の症状を3週間にわたって緩和させました。
17年には同チームが、マジックマッシュルームを食べると「うつ状態」の脳をリセットして再起動させる働きがある可能性を示唆します。シロシビンの投与は、脳に電気を与える「電気痙攣治療」と似た効果が見られたといいます。
アメリカでも、うつ病や不安障害等の精神医療について研究しているウソナ研究所などでマジックマッシュルームの研究が進み、19年には大うつ病性障害(MDD)に対する画期的治療薬としてシロシビンが米食品医薬品局(FDA)に承認されました。
これらの効能によって、アメリカではマジックマッシュルームの合法化の動きも活発になりました。
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