コラム

「世界最古」の山火事と「過去最悪」の最新事情、山火事発生の原因に見る日本の特殊性

2022年06月28日(火)11時30分

8月にはギリシャの150カ所以上で山火事が発生しました。連日40度を超える過去最悪の熱波が原因とされ、多くの人々が避難を余儀なくされました。

アフリカのアルジェリアでも、8月上旬から100カ所以上で山火事が発生し、鎮火活動中に90人以上が亡くなりました。BBCによると、2008年から20年までに同国で観測された全ての山火事を合わせたよりも大きい面積が焼失しました。

2021年はその他にも、イタリア、ブラジルやロシアなどの地域でも大規模な山火事が報告されました。

山火事発生の2つの原因

北半球ではこれから盛夏を迎えることから、今年もさらに深刻な山火事が起きるのではないかと懸念されています。

カリフォルニア州では例年、夏から秋にかけて山火事の発生件数が増えますが、今年は冬から春にかけて記録的な干ばつが続いた影響で、年頭から大規模な山火事が発生しています。

スペインでは今月、季節外れの熱波に見舞われ、各地で山火事が発生しています。ポルトガルとの国境に近いシエラ・デ・クレブラ山脈では約2万ヘクタールが消失し、近隣住民の約1700人が避難を余儀なくされています。

山火事発生の原因には、自然発火と人為的な場合があります。自然発火は高い気温と乾燥、落雷などによります。人為的なものは、たき木、農業の火入れ、放火、タバコなどが主な原因です。

Climate Innovation 2050等を主導する米国の独立調査機関C2ES(Center for Climate and Energy Solutions)は、山火事のリスクや規模が拡大している主要な要因は気候変動であると報告しています。温暖化による気温上昇は土壌の水分を蒸発させ、地表の乾燥や干ばつを引き起こします。それが山火事を発生しやすくし、被害を深刻化させると言います。

C2ESは「大規模な山火事によって多くの樹木が燃えると、木が蓄えていた二酸化炭素が大気中に放出される。それによって気候変動がさらに進行すると、山火事がさらに起きやすくなる」という悪循環も示唆しています。

山火事は気候変動が悪化する前から存在していたので、深刻化はむしろ森林管理の失敗によるものだ、という考えもあります。山火事がどれほど燃え広がるかは、気温や土の湿度だけでなく、木の種類や森の生態系などにも左右されるからです。

動物や植物、苔など、生物の多様性が豊かで、小川なども入り組んだ複雑な森では、山火事が起きても燃え広がりにくい傾向があります。対して、植林などで一種類の木が一定の間隔で並んでいるような森では、山火事が広がりやすいとされます。

英ガーディアン紙によると、近年は世界的に報道されるほどの大規模な火災が急増しています。「植林では木の根が深く張らず、苔なども増えにくいため、森全体の水分量が少なくなる。だから、山火事が起こると急速に燃え広がって大規模な火災に繋がりやすい」と同紙は分析します。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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