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知床海難事故で注目の「飽和潜水」とは? 救助・捜索に不可欠な潜水法の仕組みと歴史
また、潜水可能時間は、(タンク容積) ×(空気の圧力)÷(時間あたりの空気消費量)÷(最大水深の圧力)で計算されます。水圧は、陸上での1気圧に水深が10メートル増すたびに1気圧が足されます。水深が10メートルなら2気圧、50メートルならば6気圧なので、50メートルまで潜れば10メートルの時の3分の1の時間しか水中にいることはできません。
しかも、深くまで潜ったときほど、浮上時に血中に溶けていた窒素が気泡となって血管や臓器を傷つけたり詰まったりする「減圧症」のリスクが高まります。予防のためには浮上に時間をかけなければならず、深海での活動可能時間はさらに減ります。
過剰な窒素の入る余地をなくし、安全な潜水が可能に
知床半島沖事故の捜索で注目された「飽和潜水」は、人が深海の水圧下で身体をさらして活動するための技術です。
スクーバダイビングでは、一定以上の深さになると、タンクの高圧空気を呼吸し続けることで体内組織に通常以上に気体が溶け込み、中毒や減圧症を引き起こしました。
そこで、体内への気体の溶け込みは、ある一定量(飽和)を超えるとそれ以上は行われないという原理を利用して、あらかじめ体内にヘリウムなどの不活性ガスを飽和状態になるまで吸収させておく「飽和潜水」が考案されました。
この方法では、潜水時に体内に過剰な窒素が入る余地がほとんどなくなるので、水深100メートル以深でも安全に潜水できるようになります。
飽和潜水の手順は、まず潜水前に船上にある加圧タンクに入り、深海の高い圧力をかけた状態で一定期間を過ごします。次に、潜水用のカプセル(水中エレベーター)で加圧したまま降下し、目的の深さで潜水士は外に出ます。
深海の作業は、高圧だけでなく、低い水温にも耐えなければなりません。潜水士たちが着る特殊なスーツには、潜水カプセルからホースで温水が送り込まれ、体温や呼吸用の空気を暖めます。
19日の初回の飽和潜水では、1日かけて加圧状態にした2名の潜水士が1時間半にわたって沈没船の内外を調査しました。危険な作業ですが、ドアを開けるなどの動作は水中ドローンなどの機械では行えず、調査には人力が必要だったといいます。
作業が終わった潜水士は再び加圧タンクに入り、水深120メートルならば1週間ほどかけて少しずつ圧力を減らして、身体を元の状態に戻していきます。
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