コラム

「スナドリネコ」と「スナネコ」はどう違う? 展示施設で会える希少なネコたちの生態

2022年03月15日(火)11時25分
スナドリネコ

生息地の開拓や環境汚染によって個体数が減少しているスナドリネコ(写真はイメージです) Andyworks-iStock

<先月26日、鳥羽水族館でスナドリネコの赤ちゃんが生まれた。そもそもなぜネコが水族館にいるのか? 名前の似ているスナネコとの違いは? 他にも希少性が高く、日本に縁のあるネコの生態を紹介する>

動物園などで見られるネコ科の動物といえば、ライオンやトラなどの大型猛獣が馴染み深いですが、珍しい小型ネコが飼育されている施設もあります。

先月から今月初めにかけて、国内の動物展示施設では相次いで希少なネコの赤ちゃんが生まれました。伴侶動物のイエネコに大きさや見た目は似ていても、特別な場所でしか見られないネコたちを紹介します。

現在、ネコ科の動物は分子系統解析(アミノ酸やDNAの配列を調べて、共通の祖先から種の分岐や分かれた順番を調べる方法)を使って、2亜科(ヒョウ亜科、ネコ亜科)、8系統(ヒョウ、ピューマ、カラカル、ボルネオヤマネコ、オセロット、リンクス、ベンガルヤマネコ、イエネコの各系統)に分けられています。

今回、国内の展示施設で赤ちゃんが生まれて話題となったのは、スナドリネコとスナネコです。和名だと名前が似ていますが、スナドリネコはベンガルヤマネコ系統(一部、イエネコ系統という説もある)、スナネコはイエネコ系統で、生態や分布も全く違います。

なぜネコが水族館に?

先月26日に国内での繁殖成功2例目となるスナドリネコが生まれたのは、鳥羽水族館(三重県鳥羽市)です。ともに8歳の両親、メスの「パール」とオスの「サニー」のあいだに3匹の赤ちゃんが生まれましたが、1匹は間もなく死亡。同水族館は今月4日、元気な2匹のオスの赤ちゃんに対して、授乳しない母親に代わり飼育員が人工哺育をしていると発表しました。

ここで、まず疑問が湧くのは、「なぜ水族館にネコがいるのか」でしょう。

スナドリネコは、体長は57-86cm、体重は5.5-8.0kgで、飼い猫でいえば大型種と呼ばれるメインクーンほどのサイズのネコです。実はこのネコの英名はfishing catで、漢字では「漁(すなど)り猫」と書きます。「漁(りょう)をする猫」が語源です。

飼い猫のフードにはマグロ缶があるため、ネコは魚好きな印象があるかもしれませんが、本来、ネコ科の動物は肉食です。スナドリネコは、野生のネコとしては非常にレアな魚食動物です。泳ぎが上手で、水かきのついた前足を使って、巧みにカエルやザリガニ、魚を捕まえて食べます。この生態を知れば、水族館で展示飼育されるのも納得がいくでしょう。

次に、展示施設で一般公開されているならば、少なくとも日本では一般に見られない動物だということです。どれくらい希少なのでしょうか。

スナドリネコは、インドネシアの島々など南~東南アジア地域のマングローブや河川・沼沢地に生息します。近年、生息地近辺の開拓や環境汚染によって個体数が減少しており、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは「危急の絶滅危惧種(VU)」(中程度の絶滅危機)に挙げられています。

現在、日本では鳥羽水族館、東山動植物園(名古屋市)、神戸どうぶつ王国(神戸市)の3カ所でしか飼育されておらず、繁殖の成功は2009年の天王寺動物園(大阪市)以来となりました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計

ビジネス

米国株式市場=続落、関税巡るインフレ懸念高まる テ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、相互関税控え成長懸念高まる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story