コラム

「スナドリネコ」と「スナネコ」はどう違う? 展示施設で会える希少なネコたちの生態

2022年03月15日(火)11時25分

いっぽう、那須どうぶつ王国と姉妹施設の神戸どうぶつ王国では先月、「砂漠の天使」と呼ばれるスナネコの赤ちゃんが生まれました。那須では2日に3匹、神戸では19日に4匹生まれ、いずれも順調に育てば3月下旬頃に一般公開されるといいます。

スナネコは英名sand catで、漢字では「砂猫」と書きます。文字通り、アラブやエジプト地域の砂漠環境で育ち、オオスナネズミなどのげっ歯類などを捕食します。体長は40-55cm、体重は2-3.5kgで、飼い猫でいえば純血の小型種で世界最小と言われるシンガプーラと同じくらいかやや小さいサイズです。

生息地域が人里から離れているため、絶滅のリスクは低い(IUCNのレッドリスクで「低懸念(LC)」の評価)と考えられていますが、それでも近年は内戦や人為的に移入されたイヌに捕食されるなどの影響が懸念されています。

スナネコはワシントン条約附属書IIに掲載されている動物なので、輸出国政府の発行する輸出許可書があれば商業目的の取引は可能になっています。つまり、野生動物でありながら、ペットとして取引される可能性もあるということです。実際に、日本では大規模なペットフェアなどで一般向けに売られることもあります。

けれど、砂漠環境で育つスナネコは高温多湿の日本では飼育が難しく、しかも可愛らしい見かけに反して気性が荒いためペットには向いていません。世界最大規模の自然環境保護団体であるWWF(世界自然保護基金)の日本事務局も「スナネコをペットにしないで」と呼びかけています。

一般公開施設のないイリオモテヤマネコ

希少なネコといえば、日本に生息する二種類のヤマネコ――イリオモテヤマネコとツシマヤマネコ――も混同されがちです。どちらもベンガルヤマネコ系統で、ベンガルヤマネコの地域亜種と考えられています。

イリオモテヤマネコは、1965年に沖縄県西表島で発見されました。20世紀になってから中型以上の哺乳類が見つかることは稀で、当初は新種と発表されたこともあって大フィーバーが起こりました。後に遺伝子解析技術が進んで、アジアに広く生育するベンガルヤマネコの亜種と分類されるようになりましたが、環境省は西表島の固有種という立場を取っています。

体長は50-60cm、体重は3-4kgで中型ネコのサイズを持ち、ネズミや小型鳥類、カエル、昆虫などを捕食しています。

1977年に国の特別天然記念物に、1994年には種の保存法に基づき国内希少野生動植物種に指定されました。生育頭数は約100匹とされており、IUCNレッドリストの日本バージョンと言える「環境省レッドリスト」では、作成当初の1990年代には絶滅危惧IB類(IUCN分類の「危機(EN)」に当たる)でした。その後、2007年に見直されて、絶滅の恐れが最も高いIA類(IUCN分類の「深刻な危機(CR)」に当たる)に分類されるようになりました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

りそなHD、社内DXに100億円投資 「生成AIも

ビジネス

パナ、データセンター蓄電の28年度売上8000億円

ビジネス

マクロスコープ:日銀利上げ判断、高市首相の「最終責

ビジネス

英中銀、銀行の自己資本比率要件を1%引き下げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story