コラム

Web3は大きな富を生み、その果実は広く分散されるようになる。その代償とは

2022年08月22日(月)13時35分

個人情報をAIに捧げれば、その犠牲を遥かに上回る恩恵がある? Sefa kart-iStock.

<夢の未来実現の条件は、一般ユーザーが積極的に個人データをAIに提供するようになることだと、暗号通貨イーサリアムの提唱者であるビタリック・ブテリンは言う。そんなことが実現可能なのか>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

Web3のオピニオンリーダーの一人、暗号通貨イーサリアムの提唱者であるビタリック・ブテリン氏は、Web3の技術で経済は大きく成長し、かつその果実は少数の企業や富裕層に独占されることなく、広く分散されることになると主張する。何を根拠にそのような明るい未来を見通せるのだろう。同氏の主張を詳しく見ていきたい。

価値創造のカタチが変わった

まずその前に、企業の価値創造のモデルの変化について押さえておく必要がある。ハーバード大学のMarco Isansiti教授とKarim R. Lakhani教授が書いた「Competing in the Age of AI(AI時代の戦い方)」という本は、企業の価値創造モデルがインターネットやAIの登場で大きく変化した、と指摘している。

産業革命以来、企業の価値創造モデルは大量生産というモデルだった。1つの製品を作る工程を細かく分けて、1つの工程にだけ熟練した工員を作ることで、同じ品質の製品を大量に低コストで作ることができるようになった。一人の職人が一つの製品を最初から最後まで作り上げるという、それまでの手法に比べ、大量生産というモデルは大きな価値を創造した。

この大量生産のモデルの真髄である、工程の細分化と画一化は、ほとんどすべての業種に取り入れられた。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなども、工程の細分化と画一化で、より大きな価値を創造している。

この大量生産モデルは、最初の頃はインプットを増やせば、アウトプットも大きく増えるのだけど、インプットの伸び率に比較するとアウトプットはそれほど伸びなくなる。例えば、店員が一人のときは儲けが1万円だったけど、店員を二人にすれば儲けは1万9000円、3人にすれば2万7000円になったとする。店員の数を増やせば儲けも増えるけど、儲けの伸び率はだんだん少なくなっていく。

経済学では、大量生産モデルのこの現象を収益逓減(ていげん)と呼んでいる。

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ところがインターネットやAIの時代になると、この収益逓減のモデルが主流の時代から、収益逓増(逓増)のモデルが主流の時代にパラダイムがシフトした。それがこの本の主張だ。

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例えば、インターネットの一般利用が始まったころは、ネット通販のアマゾンで購入できるものは限られていた。ところがアマゾンの品揃えが増えると、より多くのユーザーがアマゾンで買い物するようになった。利用客が増えれば、アマゾンで商品を売りたいというメーカーが増え、商品が増える。商品が増えると、利用客が増える。正のスパイラルだ。この正のスパイラルの効果を、経済学ではネットワーク効果と呼ぶ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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