コラム

メタバース普及のロードマップ予測。カイフ・リー著「AI2041」から

2021年11月17日(水)14時53分

またユーザーが歩いたり走ったりする感覚はomnidirectional treadmillと呼ばれる全方向のルームランナーのようなもので表現されるようになる。

ここまでくると、リアルの空間でできることのほとんどすべてが、メタバースでも実装できることになる。

ただ問題はコンテンツだ。現実空間のデータをリアルタイムで把握し、それに従って仮想物体の動きを変えるMRのコンテンツを作るのは簡単ではない。ゲームやアプリを開発するのとはわけが違う。

なので、開発者の開発意欲に火をつけるためには、まずデバイスが売れないといけない。しかしデバイスが売れるためには、いいコンテンツがなければならない。鶏と卵の関係だ。このためメタバースの一般消費者市場が立ち上がるまでに、十分な時間と投資が必要になるだろう。ただ同氏によると、「一度、天秤が傾けば一気に市場が急成長するはず」と予測する。

デバイスとコンテンツの両方が揃い、広く普及すれば、多くのユーザーは現実空間と仮想空間の両方で生活するようになるだろう。

リー氏によると、今ほとんどすべての企業がAIを活用しようと必死になっているように、2041年にはほとんどすべての会社がメタバースを活用しようと必死になるだろうという。

失業したらゲームの中で暗号通貨を稼ぐ

それまでは、メタバースの用途は、ゲーム、エロ、教育、訓練が中心になる。一般消費者向けほど広く普及しないだろうが、それぞれの分野でかなり大きな市場を築くことが予想される。私自身は、特にゲーム系のメタバースが、ブロックチェーンや暗号通貨という技術を使った経済圏に発展し、ビジネス的に大成功する、と考えている。その兆しはAxie Infinityというベトナム発のゲームに見られる。このゲームは、ゲームの中に暗号通貨を稼ぐ方法が幾つかあり、コロナで職を失った人の中には、このゲームの中で稼いだお金で生計を立てている人もいるという。2018年にリリースされたゲームだが、まずはフィリピンで人気となり、その後世界中に拡散中で、累計売上は既に30億ドルに達しているという。

一方2041年ごろに「スマートストリーム」がスマホ以上に普及すれば、それ以降はコミュニケーションを始め、今はだれも思いつかないような新たな用途も出てくることだろう。

これがリー氏が考えるメタバースのロードマップ予測だ。

一方、コンタクトレンズなどつけずともホログラムを使って裸眼で仮想コンテンツを表示できるという主張もある。一時期、ホログラムを使ったプロモーション動画を発表し非常に大きな注目を集めたMagic Leapという会社があったが、結局同社が新製品として開発していたのはXRグラスだった。同社の名前はその後ほとんど聞かれないようになった。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story