コラム

ロボット×AIの領域がブルーオーシャンである理由

2019年07月01日(月)19時00分

ロボット、AIの研究者間に交流なし

ところが尾形教授によると、ロボットとAIの両方の技術を理解する人材が非常に少ないという。

「AIは大学の情報や通信の学部で教えられる。数学的には確率・統計に基づくモデリングが基盤になる。一方で、ロボットは大学の機械、電気の学部で教えられる。数学的には物理モデルを扱うための、微分方程式、線形代数が基盤になる。学問的には世界を異なった視点で扱っているのです」と言う。

研究者同士の交流も活発とは言い切れない。例えば今年の人工知能学会は2500名以上の規模で6月4日から7日の日程で新潟で開催され、日本機械学会のロボティクス・メカトロニクス講演会が2100名を超える規模で、6月5日から8日に広島で開催された。「僕は両方の学会に所属しているんですが、両方に参加することは不可能でした」と尾形教授は笑う。双方とも相互交流をほとんど意識していない。それぐらい双方の学問の間に大きな溝があることが分かる。

しかし人材がいないということはチャンスでもある。いち早く両方の領域を学んだ人材が、重要になってくる。

ロボット大国日本の地位が揺らぎ始めた

チャンスはあるわけだが、といって日本のロボット産業が安泰だというわけではない。

AIがロボット工学の新たな領域を拓こうとしている中で、論文数で日本の相対的地位が低下し始めた。

<参考記事>日本はもはやロボット大国ではない!?論文数で7位に転落

世界のロボット工学の研究テーマが機械学習、特にディープラーニングに移行する中で、日本の強さは今だにハードウェアの部分だという。

「AIを搭載しなくても、日本のロボットは高性能。それはすばらしいことなんですが、そのおかげでAIの研究が他の先進国より遅れているかもしれません」(尾形教授)。

ハード部分の技術は世界最先端。追随を許さない状態だ。なので顧客企業は、高価でもロボットを買ってくれる。AIを搭載すれば安価なロボットを開発できるかもしれないが、その性能は現状では、今の日本のロボットを超えられない。

高性能、高額ロボットで成功している日本メーカーが、「安かろう悪かろう」のロボットの領域では新興国メーカーをライバルとして戦わなければならない。得意領域を離れて、そんな領域に入っていくインセンティブはない。理にかなった判断だ。

「安かろう、まあよかろう」の市場規模は?

問題は、AI搭載ロボットがいつまでも「安かろう、悪かろう」の状態にいるのかどうかだ。もし「安かろう、悪かろう」の状態から「安かろう、まあよかろう」のレベルに到達すれば、顧客企業はそちらに鞍替えするかもしれない。さらにロボットがAIで汎用性を持つようになれば、今までにない市場が目の前に急に広がる可能性だってある。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story