コラム

AI時代にGAFAへの一極集中はありえない

2019年05月15日(水)17時45分

GAFAの一人勝ちは、AIと人間が互いに高め合う時代には通用しない? metamorworks-iStock

エクサウィザーズ AI新聞から転載

最近ビジネス誌などで「GAFA」という言葉をよく見かけるようになってきた。Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を取ってGAFA。経済、社会のあらゆる局面で影響力を増しつつある米国の巨大テクノロジー企業群を指す言葉だ。「このままでは世界中の経済がGAFAに飲み込まれる」という論調が増える中で、産業技術総合技術研究所人工知能研究センター(AIRC)センター長である辻井潤一氏は、「GAFAの利益追求型モデルは限界に差し掛かっている」と指摘する。これからのAIの進化の方向について同氏に詳しく聞いてみた。

              ***

──GAFAの脅威が注目されるようになってきましたが。

辻井 今後AIは、医療や介護、都市計画など、社会のあらゆる領域で広く使わるようになっていきます。そうした領域のデータの全てを、GAFAが持っているわけではありません。医療だと医療機関が持っていますし、製造業だと製造業が持っています。都市計画なら政府機関が持っている。

製造業にはGEやトヨタなどといった大きな会社もあります。GAFAがすべてのデータを吸収できるとは思えません。

──確かにGAFAが大量のデータを持っているといっても、ネットやモバイルを通じた消費者の消費行動に関するデータが中心ですよね。それ以外の領域のデータはほとんど持っていない。でもAIの優位性をてこに、製造業などを支配下に収めていくというシナリオは考えられないでしょうか? GAFAではないですがIT系の起業家だったイーロン・マスク氏はテスラで自動車産業に参入しましたし、GAFAも自動走行車やロボットのベンチャー企業を買収したり、研究開発を進めているようです。AIが既存技術を取り込んでいくということはないでしょうか?

辻井 GAFAも自動走行車やロボットの領域でいろいろとやってるみたいですが、最近では買収した企業を手放したりもしていますね。

──やっぱり製造業には細かなノウハウがたくさんあって、優れたAIを持っているからといって、一朝一夕に簡単には真似できないのかもしれませんね。

辻井 そうですね。既存業界のドメイン知識って、思った以上に重要なんだと思います。やはりこれからのAI化って、AIのデータサイエンスと物理的な既存技術とが絡み合って共に進化していくのではないかと思います。GAFAを中心とした利益追求型のアメリカの経済モデルも、過渡期に入ってきたということなのではないでしょうか。

AIの進化は米中欧の3極化

──そうなんですね。ではどのようなモデルが今後は有効だと思いますか?

辻井 まずは今ある世界のモデルを見ていきましょう。アメリカは、GAFAを中心とした利益追求型モデルです。でもこれからAIが社会の隅々にまで浸透して行きます。医療や介護、都市計画にまでAIが使われるようになる。そうなると利益追求型のモデルでは限界があります。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story