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倫理をAIで科学する エクサウィザーズ社長石山洸
──プーチン大統領が、「AIを牛耳ったところが世界を征服する」とかいうような発言していましたね。イーロン・マスク氏らがその話をtwitterで拡散してました。イーロン・マスク氏らが中心になって、倫理観を持ってAIを使おうというような運動が起こっていますが、もっと積極的に何かできるのではないか。新しい時代に合った倫理観を、AIを使って形成していくことができるのではないか、というお話ですね。めちゃくちゃ斬新な考えですね。こうした研究を通じて国際的な紛争を解決できたり、第3次世界大戦を回避できればいいですね。イスラム国などの問題を見ても、結局は時代遅れになった異なる倫理観同士の衝突という見方もできますし。
石山 哲学者のスピノザは『エチカ』という本を書いているのですが、エチカというのはラテン語で"Ethica"と書き、英語では"Ethics"で、日本語の倫理にあたります。この倫理学の古典の名著の一冊の副題は「幾何学的秩序に従って論証された」で、ユークリッド幾何学から影響を受けていました。その後、脳科学者のダマシオは『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』を書いています。つまり倫理学は、歴史的にも数学や脳科学からも色んな影響を受けているんです。そういう視点から見てみると、今の時代に人工知能から影響を受けて倫理学が発展しても、全然おかしくないんです。
「論語と算盤」から「新しい倫理とAI」へ
──ただ一つ心配なのは、どこかの国家が国民をコントロールするために、この倫理観のモデルを使う可能性もありますよね。
石山 そうなんです。その可能性はあります。儒教や宗教も過去の為政者たちによって自分たちの都合のいいように内容を変えられましたから。
ただ倫理観の形成過程が可視化されるので、そのデータを見ながらどういう倫理観がいいのかをボトムアップにデザインしていくことが可能になると思います。それが過去の倫理観の形成方法とは決定的に異なる点だと思いますよ。
──研究分野としては大変おもしろそうなんですが、社会を変えていくためには研究成果を技術やビジネスに落とし込んで、世の中に広めて行く必要があると思うんです。AIをベースにした倫理の研究って、どのようにビジネスにしていけるのでしょうか?
石山 Yコンビネーターがベーシックインカムの社会実験を始めたというニュースがありますが、同じように、「エビデンス・ベースド倫理」の枠組みについても、アントレプレナー達が立ち上がってボトムアップに社会実験を展開していけると思います。
日本のアントレプレナーシップの祖である渋沢栄一も「論語と算盤」という本を書いているくらい儒教から影響を受けた人でした。また、日本政府も第四次産業革命という産業革新のスローガンから、Society5.0という社会革新のスローガンへと移行してきています。倫理の世界の人工知能の活用について、市民・研究者・起業家・政府が一丸となれば、日本が世界的なリーダーシップを取れるチャンスがあるはず。
この兆しとして、市民が積極的にコンピューター科学を活用しながら、社会的なエビデンスを能動的に獲得していく"Citizen Informatics"という分野が勃興し始めています。例えば、私も研究している認知症の分野では「The Society of Citizen Informatics for Human Cognitive Disorder」という学会が設立されました。日本語では「みんなの認知症情報学会」という名前なのですが、この「みんなの」という部分は、認知症の当事者も一緒に倫理研究を進めることを意味しています。このようなアプローチ方法は、為政者に利用されないかという心配に対するひとつのヒントになるんじゃないかなと思っています。
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