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倫理をAIで科学する エクサウィザーズ社長石山洸
バイオ、サイコ、ソーシャルの境を超えて
──なるほど。バイオ、サイコ、ソーシャルをデータ化できるのであれば、機械学習を使えば3つの領域の相関性が分かりますね。
石山 そうなんです。またTMSの刺激でなく、マインドフルネスだったら、どのようなデータが取れるのか。或いは、弊社でも推進している認知症ケアの手法「ユマニチュード(R)」を活用したらどうなのか。TMS以外の介入方法が、協調を生むかどうかを定量的に評価していくことが可能になります。つまり、バイオ・サイコ・ソーシャルなデータをどんどん取得して、機械学習を用いて協調や裏切りについて科学することができるわけです。
当然、磁気刺激で協調関係が向上するというと怖い感じがしますが、瞑想や身体性を伴うコミュニケーションで同じような効果が得られるなら受け入れやすいかも、というような導入面での倫理的な観点についても検証していくことができます。
──バイオ、サイコ、ソーシャルの領域をAIで解明するのって、おもしろい話ですね。今までは、生物学の研究は生物学の領域だけで、心理学は心理学の領域だけで、社会学は社会学の領域だけで研究されていたものが、学問の境界線を超えることができるわけですね。
石山 その通りです。バイオに刺激を与えてサイコ、ソーシャルがどう変化するかという方向だけではなく、逆も可能です。サイコの変化がバイオ、ソーシャルのデータにどう変化を与えたか、ソーシャルの変化がバイオ、サイコをどう変化させるのか、など、いろいろ解明できます。
──サイコの変化がバイオにどう影響を与えたかって、どう測れるのですか?
石山 唾液内のオキシトシンを測定するなど、いろいろな数値を取れます。サイコやソーシャルの数値はアンケートでも取れるでしょうし、別の方法でもいくらでも取れると思います。
──データが取れれば機械学習でいろいろなことができそうですね。サイコ、バイオ、ソーシャルのデータのうちの1つが欠如していても、別のデータから数値を予測できますからね。
石山 もちろんそうしたことも可能ですし、囚人のジレンマ以外でも他の社会的規範や倫理的な問題についても解析できるようになると思います。また囚人やプレーヤーの数を二人からn人に拡張していけば、より広範囲での社会課題を取り扱えるようになっていくわけです。つまり、どういう介入で、どういう倫理的効果が生まれるのかをデータ・ドリブンで解明できるんです。
人工知能が解明する日本の倫理観
──倫理観の研究って文化によって内容が異なってきそうですね。東洋は東洋の倫理観の形成プロセスがあったでしょうし、キリスト教やイスラム教などの文化圏でもそれぞれ独特の形成プロセスがあると思います。そういう意味で、日本は東洋的な倫理観の研究に着手すれば、世界的に見てもおもしろいものができそうですね。
石山 そうですね。日本人の倫理観に深い影響を与えているもの一つに儒教がありますが、儒教の教えの中には、バイオ、サイコ、ソーシャルの関連性について説いているものがあります。例えば儒教における「仁」という概念は、孔子がその中心にすえた倫理規定。漢字では「ニンベン」に「2」と書くくらいで、人と人との間のあるべき人間関係を規定しており、英語では「Goodness」と翻訳されます。一方で、この抽象的な仁という概念を具体的に実現する方法が、行動様式としての「礼 = Ritual」で、いわゆるマナーのようなものです。この「仁」と「礼」というものの関係については、古くから強調きたわけです。
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