コラム

AI革命は終わらない NVIDIAカンファレンスレポート

2017年05月22日(月)16時00分

またシミュレーション環境の中では、時間が現実の通りに流れる必要はない。時間を早送りしておけば、ロボットはそれだけ速く学習できることになるわけだ。

AIが学習するには膨大なデータが必要だ。そのデータを効率よく集める方法として、このようなシミュレーション環境を使うという手法はこれまでにも使われてきた。

韓国の碁のチャンピオンに勝ったGoogle傘下DeepMindのAI「AlphaGo」は、シミュレーション環境の中で何度も何度も自分相手に戦ってきた。自動走行車ベンチャーのZooxも、シミュレーション環境の中で走行距離を伸ばし、より安全な自動走行AIを作ろうとしている。

ただこうしたシミュレーション環境を作るには、それなりの技術とコストがかかる。それをNVIDIAがすべてのロボットベンチャーに代わって開発し、広く提供しようというわけだ。

NVIDIAには、科学演算で培ったノウハウがある。物理法則をバーチャルリアリティの中に実装するのは得意だ。光の当たり方などをリアルに再現する技術にも定評がある。NVIDIAがこれまでゲームや科学演算、AIなどの分野で培ってきた技術が、すべて役に立つことになる。NVIDIAならではのシミュレーション環境となることだろう。

このシミュレーション環境で学習したAIを搭載するだけで、ロボットはその日からリアルな環境を理解し、活動できることになる。

NVIDIAはまた、ロボットのハードウェアの規格もいくつか用意し、提供し始めた。ハードウェアとソフトウェア(AI)の両面から、ロボットベンチャーを支援しようというわけだ。

今後、シミュレーション環境「Isaac」を利用して賢くなったロボットが次々と登場してくることだろう。製造業からヘルスケアまで、2、3年後にはあらゆる産業でロボットが活躍する社会になっているかもしれない。

このほかにも、バーチャルリアリティの中に複数のデザイナーが入って、議論しながら製品をデザインできる開発環境なども発表された。

このように発表されたのは、他社が利用することでAI革命が加速しそうなインフラ的な技術ばかり。こうしたインフラを使ってAI革命は加速こそすれ、ブームが2,3年以内に収束することなどありえない話だと思う。


・初心者OKビジネスマンのためのAI講座 なんど同じ質問をしても怒らないAIエンジニアが講師

・2歩先の未来を創るTheWave湯川塾

湯川鶴章オンラインサロン 湯川の日々の取材メモを全公開!

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story