コラム

AI革命は終わらない NVIDIAカンファレンスレポート

2017年05月22日(月)16時00分

頭打ちどころか、進化が加速した

今年のGTCで最も驚いたのが、次世代GPUに関する発表だ。NVIDIAの次世代GPUには、210億のトランジスタが搭載されるという。CPU100基分に相当するトランジスタ数だという。

処理能力は、前世代の5倍、その前の世代の15倍にも達し、「ムーアの法則で予測されている値の4倍を超える」(NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏)という。

ムーアの法則が頭打ちになるどころか、ムーアの法則を4倍以上加速させたことになる。

新しい設計思想を採用したことによる加速らしい。新しい設計思想は、よりAIに向いたものになっているのだという。

yukawa170522.jpg
進化したAI用半導体、NVIDIA-Telsa-V100  NVIDIA


進化が加速したことで、どのようなことが可能になるのかはまだ分からない。まるで水平線の辺りに、大きなうねりが見えたようなものだ。まだ遠くにあって、その実感はつかめない。しかしその大きなうねりは、必ず浜辺に押し寄せてくる。

2~3年でAIブームが収束するどころか、2~3年後にはさらに大きな波となって多くの業界を飲み込むことになるだろう。

シミュレーション環境でロボット百花繚乱

ロボットのAIにリアルな環境の中で学習させるのは大変だ。なぜならロボットが失敗するたびに、いろいろなものを壊すからだ。でも失敗しない限り、学びはない。

失敗しても、モノが壊れない環境が必要になる。バーチャルリアリティなら、失敗してもモノは壊れない。そこでNVIDIAでは、ロボットAIの学習のためのバーチャルリアリティのシミュレーション環境「Isaac」を開発した。

ロボットのためのシミュレーション環境なので、できる限り現実に近いものである必要がある。

例えば、つかんでいたモノを落としたときは、引力の法則に従って落下する必要がある。バーチャル環境の中でも、地球上の物理法則が存在しなければならないわけだ。

見た目も、リアル環境そっくりのほうがいい。光の方向によっては物体に影ができ、影の中は暗くてモノを認識しづらくなる。こうしたリアリティも、バーチャル環境の中で再現されなければ、ロボットは現実を正しく学習できないだろう。

また人間もこのバーチャル環境の中に入って、ロボットとインタラクションし、ロボットAIの学習を支援する必要がある。

一方で現実と異なるほうがいいこともある。例えば人間は学習したことを他の人に伝える場合は、書物などを通じて間接的に情報を伝達しなければならない。ロボットは搭載されているAIをネットワークで繋げば、1台のロボットが学習した情報が瞬時にすべてのロボットに直接的に伝播される。複数台のロボットに試行錯誤させて学ばせることで、学びを加速させることが可能なわけだ。シミュレーション環境ならロボットの台数を増やすことに、まったくコストはかからない。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、来年のウクライナ緩衝地帯拡大を命令=ロ

ワールド

タイ、停戦合意に基づきカンボジア兵18人を解放

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story