コラム

LINEチャット対応でデータを蓄積、トランスコスモスのAI戦略

2016年09月09日(金)14時42分

Mike_Kiev-iStock.

<コールセンターで電話に取って代りつつあるLINEチャット。膨大な数のメッセージに丁寧かつ迅速に対応できるチャットオペレーターの存在が不可欠だが、その通信記録をデータ化すれば、いずれはAIを使ったチャットボットにつながっていく>

 人工知能はいろいろな業界の勢力図を塗り替えようとしている。中でも注目すべきはチャットマーケティングの領域。今はアナログの手法が中心だが、いずれチャットボットで全自動化されるはず。その未来に向かってコールセンター大手のトランスコスモスは過去と決別する決意で動き始めた。

 金曜日の午後5時。大東建託のLINEアカウントを通じて「礼金ゼロ円キャンペーン」の案内を一斉同報したところ、その直後から何万というLINEメッセージがまるで嵐のように押し寄せてきた。対応するのは、大東建託の委託を受けた数十人のトランスコスモスのチャットオペレーターたち。ある程度の瞬間風速を予想し、一人当たり十一画面とにらめっこをしながら対応に努めたが、熟練者でも圧倒される勢いだ。

「神対応」が評判に

 発表文によると、LINEアカウントを通じた大東建託に対する問い合わせ件数は3カ月平均で一日180件にも上った。LINEのやり取りのあと、実際に来店し、賃貸契約に至った顧客も大幅に増加したという。

 ユーザーの評判も上々だった。「勘違いした問い合わせにもチャットオペレーターが親切に対応したので、『神対応』としてネット上で話題になったりしました」(transcosmos online communications貝塚洋社長)。「多くのユーザーにとって大東建託さんとのファーストコンタクトになる。そこでの対応がよければ、その会社のイメージががらっと変わる。チャット対応の責任は重いんです」(トランスコスモス上席常務執行役員・緒方賢太郎氏)という。

【参考記事】カスタマーサポートでチャットボットの普及が見込まれる理由

 緒方氏によると、かわいいスタンプを無料配布することで数百万人程度の「お友だち」を獲得することは可能。大手ECサイトともなると3000万人程度の「お友だち」がいるという。ものすごい数だ。そこに向かってメッセージを発信することで、低コストで「お友達」から「顧客」へのコンバージョンが可能だという。貝塚氏によると、某クライアントの顧客獲得コストは、リスティング広告の3分の1程度にまで削減されたという。

 なぜチャットマーケティングがここまで効果を発揮できるのか。1つの理由は、若者のコミュニケーションツールが、電話、メールから、LINEへと移行してきているからだ。貝塚氏は「われわれの調査によると、10代、20代のコミュニケーションの7、8割はチャットベース。余程のことがないと電話しないんです」と言う。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story