コラム

頭のよさって何ですか? 人工知能時代に求められる「優秀さ」「スキル」とは

2016年02月09日(火)17時15分

 ただ決定的に違うのは、熱意に関する表現だ。シーリグ氏は「情熱なんてなくていい」と一見正反対の主張をしている。

 しかしよく読んでみると、シーリグ氏は「最初は情熱がなくてもいい」と言っているだけで、その重要性を否定しているどころか、情熱を不可欠なものだと考えていることが分かる。

 丸氏は、社員を採用するときにパッションを持っているかどうかを最重要視するという。パッションが出発点なわけだ。丸氏自身も、パッションの塊のような人物だ。

 一方でシーリグ氏は、「情熱はあとからついてくる」と言う。つまり情熱を持っていない人でも、情熱を持てる方法があると指摘している。

情熱を持つには、何でもやってみる、没頭すること

 実は、この情熱を持てないことこそが、現代人の抱える最大の問題ではないかと思う。

「だれか行き先をしめしてくれないだろうかと嘆く人。自分が思い描くように生きる自信がない人が大勢います。どこを目指せばいいのか分からず、障害をどうやって乗り越えればいいのかが分からない。イノベーターとして自分の未来を切り開こう、実現するもしないも自分次第だとは考えない人たちが大勢いる」と、シーリグ氏は嘆く。「未来は自分自身の手で切り開くことができる」ということこそを、若者に教えなければならないと主張している。

 丸氏、シーリグ氏の提唱するサイクルがぐるぐる回り始めれば、それに伴い自信もついて、パッションも高まる。実績がつき、さらに自信がつき、さらにパッションが高まる。正のスパイラルだ。

 ただその正のスパイラルの最初の原動力となる、最初のパッションをどう高めればいいのか。

 シーリグ氏は、何でもやってみることだと言う。「情熱を傾けられるものを見つけようと、内へ内へとこもる人たちにはよく出会いますが、行動してはじめて情熱が生まれるのであって、情熱があるから行動するわけではないということです」。

 没頭しろとも同氏は言う。「最初から好きになる一目惚れはめったにない。人でも職業でも、深く知れば知るほど、情熱を持ち、のめり込むようになる」と指摘する。考えずにまず動け、ということだ。

PDCAサイクルは人工知能に取って代わられる

 ビジネスセミナーなどでしきりに推奨されているPDCAサイクルは、センサー、人工知能、ロボットを組み合わせたシステムが最も得意とするところ。インダストリー4.0と呼ばれるような全自動工場の仕組みは、センサーで得たデータを基に人工知能が生産ラインの最適化案を考え、それに基づいてロボットや生産ラインが動く、というもの。まさにPDCAサイクルそのものだ。そして人工知能はさらに進化し、オフィスのPDCAサイクルも侵食していくことだろう。

 PDCAを回すことだけに専念してきた人たちは、人工知能に仕事を奪われ、ますます自信をなくしていくことだろう。生きる自信を失う人や、うつ病になる人が増えていくかもしれない。そんな人にこそ、丸氏のQPMIサイクルやシーリグ氏のインベンション・サイクルを実践してもらいたい。シーリグ氏は、起業したりプロジェクトを実行する能力は、生まれつきの能力ではなく、学ぶことのできるスキルだと言う。時代が変化しているというのに、新しい時代が求めるスキルを若者に教えないのは「犯罪行為と同じだ」とシーリグ氏は糾弾する。

 これからの「頭のよさ」は、どれだけ熱意を持っているか、どれだけ独創的で、どれだけ仲間が多いか、ということになっていく。「一流大学を出た」というような、今の定義の「頭のよさ」は、その賞味期限が切れようとしている。どれだけロジカルシンキングが得意でも、人工知能には絶対に勝てないからだ。

【著者からのお知らせ】少人数制勉強会TheWave湯川塾32期「FinTechの次に見えるブロックチェーンが拓く世界」、募集を始めました

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story