コラム

人工知能はデータを富に変えられない、人間の「欲」が不可欠だ

2015年08月17日(月)18時00分

「人工知能の進化でデータから自動的にいろいろな知識が発見されるようになるので、自分たちは何も考えなくてもよくなると考えている人が多いが、事実はまったく逆。さまざまなデータが出てくる中で、人間が判断しないといけないことはむしろ増える」。もちろん分析するデータがある程度定まれば、人工知能が適切に組み合わせたり適切に分析してくれる。ただ何のためにデータを分析するのか、そのためにどのようなデータを選んで集めるべきか、というような「意思」は人間が持たなければならない。

人間の「欲」を自覚することが不可欠に

「ではその意思はどこから出てくるのかというと、取りも直さず人間の欲であったり、欲を持った顧客を満足させなければならない仕事におけるミッションだったりする。そこは、欲の根源である肉体を持ち、ゆえに欲というものを知っている人間にしかできない。人間が明確に目的意識を持つということは、欲を自覚することであり(人工知能が普及する)これからの社会において非常に大事になる」と大澤教授は指摘する。

 データの中には、既に存在しているデータ、集計しやすいデータ、機械が理解しやすいデータがある。そうしたデータだけを人工知能に与えて解析させれば、社会の一部の側面だけを映し出す結果になりかねない。それを基に、予測、提言させれば、社会が間違った方向に進む恐れさえある。「特に、ある新しいアルゴリズムをハイライトしてしまうような人工知能研究者の提言を重視し過ぎると、表面的な合理性だけを追求し、艶も色気も褪せた多様性のない社会になるかもしれません」。そういうことが起こらないようにするには、人間がしっかりとした意識を持たなければならないし、人間の意思を組み込むような社会システムのあり方を考えていかなければならない。

「データが溢れる社会になっていくのは間違いない。しかし大事なのは、まず人の欲を考えること。機械が読める情報が人間の意思決定を先導してしまえば、人間が幸せになれない」。大澤教授のこの言葉を胸に刻んで、人工知能の利用がさらに広がる時代に向けて進んでいきたいと思う。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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