中国が傲慢な理由で強行した「モンゴル語教育停止」の衝撃
愛国心を教え込まれる内モンゴル自治区の小学生(フフホト市)REUTERS
<IT時代には不向きな言語との差別的言説で同化政策が一層進む>
モンゴル語教育に安楽死を命じる――中国政府は6月末、そのような政治的目的を帯びた秘密文書を内モンゴル自治区に届けた。今秋の新学期から、学校におけるモンゴル語教育を停止するという内容である。
まず通遼市という地域から始まるが、誰もここだけで終わると思っていない。具体的には小学校では「道徳」の科目の授業を中国語で行い、中学以上では「モンゴル語」科目以外を全て中国語に切り替える。その口実も実に傲慢だった。
いわく、モンゴル語は先進的な科学技術や中国流の思想道徳を教えるのに不向きで、「優れた言語」である中国語こそがIT時代にふさわしいという。
最初は大勢のモンゴル人教師が失職の危機感から抵抗を始めたが、次第に民族文化そのものが消される同化政策に対する怒りが拡大している。特定の言語が現代の科学技術に適していない、という差別的な言説を信じる人は中国以外にはいないだろう。
歴史をひもとけば、中国の科学技術は13世紀まで長い停滞期にあえいでいた。中国の科学技術が飛躍的に進歩したのは、モンゴル帝国が形成され、アラビアやペルシャといった西方の先端技術・思想を東方に呼び込んでからだ。
北京市内に残る元朝時代の天文観測台と漢文に翻訳された多数のアラビア語・ペルシャ語の科学史的著作がその史実を雄弁に物語っている。科学技術の東方への伝播はモンゴル語を媒介としていたのである。
モンゴル人が堅持する民族自決権
モンゴル帝国が崩壊した後も、18世紀末までのモンゴル語はユーラシア各王朝の宮廷言語兼外交言語であった。清朝が南アジア諸国との間で外交使節を交わす際もモンゴル語に頼ることがあった。いわば、モンゴル語はペルシャ語やテュルク語と並んで、ユーラシア世界における政治的地位の高い言語であり続けた。その結果、ロシア語やテュルク系諸言語の中の政治用語はモンゴル語に由来するものが多く残っている。
モンゴル語が内包する高い政治性と国際性ゆえ、中国政府はモンゴル語に対して一貫して警戒心を抱いてきた。モンゴル人は第2次大戦後に独立国モンゴル人民共和国と旧ソ連圏内、そして中国の内モンゴル自治区に分かれて暮らしてきた。
レーニンが掲げていた民族自決の思想、すなわちどの民族にも独自の国民国家を造る権利があるという理念を、モンゴル人は一度も放棄していない。民族の統一を実現するには言語の同一性を堅持しなければならない。
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