コラム

アメリカにとって特別な首相だった安倍晋三──バイデン演説から見える深い因縁

2022年07月14日(木)17時50分
バイデンと安倍

副大統領時代のバイデンと会談する安倍首相(当時、2013年12月) REUTERS/Toru Yamanaka/Pool

<バイデン米大統領は安倍元首相の死に哀悼の意を示したが、そのスピーチが行われたのはアメリカと安倍にとって大きな意味を持つ場所だった>

2022年7月8日、安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、帰らぬ人となった。

世界平和度指数を見ても、日本は世界で最も治安が良い国の一つに名を連ねている。そんな国で元首相が遊説中に暗殺されるというのは衝撃的であるのと同時に、安全な国だからこそ警備に隙ができたとも考えられる。

このニュースは文字通り世界を駆け巡り、安倍と個人的にも面識のある世界のリーダーらにも衝撃を与えた。各国から次々と追悼のメッセージが送られ、各国の大使館に要人が弔問に訪れた。

世界各国の反応の中でも、特に印象的だったのは、アメリカの反応だ。過去を振り返っても、安倍はアメリカとは非常に近い関係で、第一次政権時から米政府関係者らとは密に繋がっていた。日本でも米大使館を通して、国務省などと頻繁にやりとりを行なっていた。

アメリカ側の認識も同じで、安倍との関係は非常に近かった。米政府関係者のみならず、筆者はCIA(米中央情報局)の要職を務めた人物から安倍の側近らと親しいという話を直接聞かされたことがあるくらいだ。

機密情報漏洩の防止を目的とする特定秘密保護法や、集団的自衛権の行使を容認する安保法制はそんな流れから生まれたと言える。かつてないほど日米が密に繋がっていたのは間違いない。

今回の暗殺を受け、アメリカはまずホワイトハウスがジョー・バイデン大統領の名前で追悼の声明を発表した。しかし、バイデンからの安倍に対するメッセージはそれだけではなかった。

CIA「追悼の壁」の前で語られたスピーチ

実は安倍が暗殺された7月8日、バイデンはバージニア州にあるCIA本部を訪問し、設立75周年を記念するイベントに参加することになっていた。そしてホワイトハウスの声明を出した後、バイデンはCIA本部に出向き、75周年を祝うスピーチを行ったのである。

そのスピーチは、CIA本部にある殉職者を追悼する「メモリアル・ウォール(追悼の壁)」の前で行われた。この壁には、名前も作戦もすべて機密の中で死んでいったCIAの殉職者が出るたびに、壁に星が彫られる。毎年、そこには名前も明かされない殉職者のために新たな星が彫られ、現在、139個の星がある。

バイデンは、そのスピーチで改めて安倍に触れたのである。「今日のイベントについて話す前に、友人である安倍晋三元首相の恐ろしくショッキングな殺害事件について少し話したい」と、バイデンは話し始めた。安倍とはバラク・オバマ政権時の副大統領としてよく話をしたと述べ、安倍について「祖国と国民への奉仕が彼の骨の髄まで染み込んでいた」とコメントしている。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story