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ヴィズマーラ恵子|イタリア

スペインとポルトガルの大停電から学べ、イタリアのエネルギー転換と原子力再開の議論

Shutterstock-luca pbl

2025年4月28日、スペインとポルトガルで大規模停電が発生

影響はイベリア半島全域およびフランスの一部に及んだ。原因は特定されておらず、スペイン政府は調査委員会を設置し、解明を進めている。マドリードやリスボンでは地下鉄や信号が停止し、交通渋滞や空港の混乱が発生した。

カード決済は使用不能となり、警官が手信号で交通整理を行った。病院は通常業務を停止し、エレベーターの閉じ込めはマドリード市内で174件に上った。原因として、フランスとの送電線切断やスペイン国内の発電量急減が指摘されているが、送電設備の異常だけでは説明できないとの見方もある。両国政府は非常事態を宣言し、再発防止に向けた対応が求められている。

事故の発端はスペイン南西部エストレマドゥーラ州の太陽光発電設備にあった可能性が高いとイタリアなど複数のメディアが報じている。停電は現地時間12時33分に発生し、太陽光発電の出力がわずか5分間で18ギガワットから8ギガワットに急落。その後、送電網は一度安定を取り戻したものの、1.5秒後に再び異常が発生し、3.5秒後にはスペインとフランスを結ぶ送電線が遮断され、合計5秒でネットワーク全体が崩壊したとされる。

事故当時、スペインの電力供給の78%は太陽光・風力・原子力といったグリーンエネルギーで賄われており、特に太陽光が59%を占めていた。Red Electrica(スペイン送電公社)の責任者は「原因は太陽光発電設備にある可能性が高い」と述べ、運用サービス部長も「異常気象でもサイバー攻撃でもない」と断言した。

エストレマドゥーラ州のフランシスコ・ピサロ太陽光発電所では、中国製ソーラーパネル150万枚が使用され、約33万世帯に電力を供給していた。こうした中、国民の間で「中国製ソーラーパネルが原因では」との疑念が広がりつつあり、スペインのサンチェス首相は「再生可能エネルギーの過剰供給や原子力の出力低下が原因ではない」と強調し、火消しに追われた。

エネルギー専門家ジョン・ケンプ氏は、「この地域は再生可能エネルギーの導入率が世界で最も高く、今回の停電はグリーン電源の信頼性と広域障害からの復旧に関する重要なケーススタディーになる」と指摘。背景にはスペインの対中依存体質もあるとみられ、同月11日には中国の習近平国家主席が訪西し、サンチェス首相に「中国とEUは関税に連携して対抗すべきだ」と呼びかけていた。

停電の根本原因特定には数カ月を要する可能性があり、今後の調査と国際的な注目が集まっている。


| 中国からの輸入依存とイタリア国内生産の動向

イタリアでは、太陽光発電の導入が急速に進んでいる。国内生産と輸入が組み合わさり、需要を満たしている。イタリア国内には、太陽光パネルを製造する企業が存在している。例えば、カターニアに拠点を持つ「3Sun」は、ヨーロッパ最大級の太陽光パネル工場を運営している。サヴォーナ県フェッラニアに本社を構える「Ferrania Solis」も、太陽光パネルの製造を行っている。

イタリア国内の太陽光パネルメーカー

  • 3Sun:​シチリア州カターニア県に拠点を置く、Enel Green Powerが100%出資する企業で、ヨーロッパ最大級の太陽光パネル工場を運営。​

  • Ferrania Solis:​リグーリア州サヴォーナ県フェッラニアに本社を構える企業で、太陽光パネルの製造を行ってる。​

これらの企業は、イタリア国内での生産を通じて、太陽光発電の拡大に貢献している。

一方で、イタリアは太陽光パネルの多くを輸入した。
前左派政権では、イタリアは中国との一帯一路の覚書を締結していた。そういった背景もあり、特に、中国はイタリアの主要な供給国である。イタリア以外の欧州諸外国を見てみると、2023年、EU全体での太陽光パネルの98%が中国から輸入された。
この傾向はイタリアにも当てはまり、イタリアの太陽光パネルの輸入の大部分は中国から来ている。
これにより、イタリアの太陽光発電システムは、依然として中国製品に依存しているといえよう。

しかし、メローニ政権になってからは、イタリアでは国内生産の強化が進められている。

例えば、ミラノに拠点を置くBee Solarと中国のHuasunは、2025年3月にイタリア国内での太陽光パネルの生産拠点を建設する予定である。この動きは、欧州の中国製品への依存を減らすための重要なステップとして注目されている。

それでも、太陽光発電の導入には課題が存在する。2025年4月30日現在、イタリアにおける多くの太陽光発電プロジェクトは「建設予定」の段階で止まっている。

これには、供給チェーンの遅延や製造コストの上昇、EU内での保護主義的な動きが影響している。特に、中国からの輸入パネルの供給が遅れていることや、税制変更によるパネルの製造コスト上昇が影響している。

イタリアの太陽光発電導入は、国内生産の拡大と輸入依存をうまく組み合わせることで進んでいる。しかし、供給チェーンの遅延や政策の不確実性などが影響し、プロジェクトが予定通りに進んでいない状況である。

| イタリアのエネルギー事情と原子力発電の現状

イタリアの原子力発電所と再始動の可能性

イタリアは、かつて原子力発電を行っていた国であったが、1987年に発生したウクライナの原子力発電所事故(チェルノブイリ事故を受けての反応)を契機に、国民投票により原子力発電所を廃止することが決定された。これにより、イタリア国内の4基の原子力発電所は、段階的に閉鎖された。これらの発電所は、1980年代から1990年代にかけて停止し、以後、イタリアでは原子力発電は行われていない。

現在、イタリアは原子力発電を行わず、代わりに再生可能エネルギーや他のエネルギー源に依存している。しかし、近年ではエネルギーの安定供給と低炭素化のために、原子力発電の再導入について議論が始まっている。

2020年以降、一部の政治家やエネルギー専門家は、原発再開の可能性を模索し始めており、電力不足や温暖化対策として原発再開の必要性を訴えている。ただし、原発再開には国民の意見や安全性に関する懸念、コストの問題もあり、現段階で具体的な再始動の計画は立っていない。

イタリアの電力供給と輸入元

イタリアは、国内で十分な電力を自給することができないため、多くの電力を輸入している。イタリアは周辺国、特にフランス、スイス、オーストリア、スロベニア、さらには北アフリカ(リビアやアルジェリアなど)から電力を輸入している。

フランスからは、主に原子力発電による電力が供給されており、フランスが原子力発電所を多く保有しているため、安定した供給源となっている。これにより、イタリアは需要に応じて他国から電力を調達し、国内の需要を満たしている。

また、イタリア国内では、再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、水力発電)の導入が進んでおり、これらが国内のエネルギー供給を補完している。特に太陽光発電は急速に増加しており、再生可能エネルギーの割合は年々増加しているが、それでも全体のエネルギー需要を完全にカバーするには至っていない。

イタリアの高いエネルギー料金

イタリアは、欧州の中でもエネルギー料金が高い国の一つである。この理由は複数あり、主に以下の要因が挙げられる。

  • ○エネルギーの輸入依存
    イタリアは国内でのエネルギー資源が限られており、特に化石燃料や電力の多くを他国から輸入している。このため、輸入エネルギーの価格に影響されることが多く、国際市場のエネルギー価格の変動がそのまま電力料金に反映される。

  • 再生可能エネルギーのコスト
    イタリアでは再生可能エネルギー、特に太陽光や風力などの導入が進んでいるが、これらのエネルギー源は初期投資が高く、発電効率が安定しない場合がある。そのため、再生可能エネルギーの導入にかかるコストが電力料金に影響を与えている。

  • 高い税金と規制
    イタリアのエネルギー価格には、政府の税金や規制も影響している。エネルギー消費に課される税金や費用が電力料金に加算されており、これが価格を押し上げる原因となっている。また、環境保護や温暖化対策を進めるためのコストもエネルギー料金に転嫁される。

  • 供給チェーンの問題
    エネルギー供給チェーンにおける遅延や供給不足がある場合、イタリアでは電力の価格が急騰することがある。特に冬季や異常気象の際には、エネルギー供給に影響が出ることがあり、それが価格を押し上げる原因となる。

  • 市場の競争力不足
    イタリアのエネルギー市場は、他国と比べて競争が少ないため、料金が高くなりやすい。特に電力供給においては一部の企業が市場を支配しており、価格の競争が限定的である。

これらの要因が組み合わさり、イタリアは欧州で最もエネルギー料金が高い国の一つとなっている。

| イタリアの原子力発電再開の検討が本格化

イタリア政府は2024年7月1日、「国家エネルギー・気候計画」(NECP)の最終文書を欧州委員会に提出し、その中で原子力発電再開の可能性について言及した。

NECPは、脱炭素化や再生可能エネルギーの導入、エネルギー効率の向上などを盛り込んだ重要な政策文書であり、EU加盟国が今後のエネルギー政策において目指すべき目標を示すものだ。

イタリアは、再生可能エネルギーを重要視し、石炭からの脱却を進めつつ、再生可能エネルギーのシェアを拡大する方針をとってきた。しかし、電力需要が増加し、特に再生可能エネルギーの発電量が天候に左右されるため、安定した供給を維持するために、原子力発電の再導入について検討が進んでいる。イタリア政府は、再生可能エネルギーだけでは完全に国内の電力需要を賄うことが難しく、特に電化や水素製造などの新たな電力需要に対応するためには、原子力発電が重要な役割を果たすとの見解を示している。

なお、 スペインの最新NECPは、2030年までに81%の再生可能電力を目標とし、温室効果ガス排出、エネルギー効率、エネルギー自立の目標を引き上げている。

原子力発電再開に向けたシナリオ

NECPでは、原子力発電を2035年から導入し、2050年までに約800万kWの発電能力を持つ原子力発電所(小型モジュール炉=SMR、先進モジュール炉=AMR、マイクロ炉)を運用するシナリオが示されている。この発電能力は、国内の総電力需要の約11%を供給する見込みであり、最大で22%に達する可能性もあると予測されている。また、原子力の導入により、気候中立目標を達成するためのコスト削減効果が期待されており、約170億ユーロ(約2.73兆円)の節約が見込まれるとされている。

イタリアの原子力発電の歴史

イタリアは1960年代初頭から1980年代にかけて、国内に4基の原子力発電所を運営していたが、1987年のチェルノブイリ事故後、国民投票により原子力発電所の閉鎖が決定された。その後、1990年にはカオルソ(88.2万kWe)とトリノ・ベルチェレッセ(27万kWe)の発電所が閉鎖され、イタリアは脱原子力の政策を進めた。

2009年には、EU内で3番目に高い電気料金や、世界最大規模の化石燃料輸入率に対応するため、原子力復活法案が議会で可決されたが、2011年の福島第一原発事故を受けて、世論調査では原子力の再開に反対する声が高まり、政府は原子力復活の計画を断念した。

2009年の電気料金高騰や化石燃料依存を背景にした原子力復活法案の可決は、ベルルスコーニ政権の政策の一環だった。

現在の状況と原子力再開の検討

しかし、近年、世界的なエネルギー危機が続く中で、イタリアのエネルギー政策も変化している。特に、電力の輸入依存や価格の高騰といった課題が浮き彫りになり、原子力発電再開の議論が再燃している。2021年には、国民の約1/3が原子力発電の再考に賛成し、半数以上が新しい先進的な原子炉の利用を支持しているとの調査結果が出ている。

2021年の調査結果において、約1/3の国民が原子力発電の再開に賛成し、半数以上が新しい先進的な原子炉の利用を支持するという意見が出たことは、マリオ・ドラギ政権下での変化を象徴している。

2020年から続くコロナ禍で、イタリア経済に深刻な影響を与えたが、ドラギ政権はその後の経済復興とエネルギー政策の転換に力を入れ、新しい技術や再生可能エネルギーへの投資を進めつつ、エネルギー安全保障の観点から原子力発電の再評価も行った。

2023年5月、イタリア議会下院は原子力発電を再びエネルギーミックスに組み込むよう政府に求める動議を可決。その後、環境・エネルギー安全保障省は「持続可能な原子力発電に向けた全国プラットフォーム(PNNS)」の第一回会合を開催し、原子力発電再開に向けた議論が本格化した。これは、ジョルジャ・メローニ首相が率いる中道右派政権の下で、この動議が可決された。
メローニ政権は、エネルギーの自給率を高め、エネルギー安全保障を強化するために、原子力発電の再導入を積極的に支持している。

原子力発電の再開には、技術的な準備や法的整備、そして政治的な障害が残っているが、イタリア政府はその実現に向けて動き出した。再生可能エネルギーの導入が進む一方で、電力供給の安定性を保つための手段として原子力が再評価されている。イタリアのエネルギー戦略では、原子力と再生可能エネルギーの併用が重要な柱となるだろう。

また、EU内でのエネルギー政策との調整が必要である。
EU内には原子力を再生可能エネルギーと同等に扱う国もあれば、脱原発を進める国も存在する。そのため、イタリアはEUとの整合性を考慮しながら原子力発電の再開を進める必要がある。

イタリアの原子力発電再開に向けた検討は、エネルギー危機や温暖化対策の一環として重要な位置を占めつつある。NECPの最終文書では、原子力の導入を通じて、2030年の温室効果ガス排出削減目標の達成に貢献する可能性が示されている。

今後、イタリアがどのようにして原子力を再導入するか、またそれがどのように他のエネルギー源と調和していくのかが注目される。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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