パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
フランスのガソリン不足が炙り出す格差社会の悪循環
フランスで「ガソリンスタンドにガソリンがない!」という異常事態が起こり始めてから、そろそろ3週間近くが経過しようとしています。当初、このガソリン不足はウクライナでの戦争を機に起こっているエネルギー危機の問題もあり、戦争のためにフランスに十分なガソリンがなくなっているのでは?という不安材料も相まって、人々はガソリン確保に躍起になって、ますますガソリンが枯渇していくとか、当初、ストック切れのために一部店舗が休業を始めたのは、フランス最大手の石油会社トータルエナジーズ(Total Energies SE)は、各社が高騰していくガソリン価格の中で、他社と比べて1リットルあたり20セントの値下げをしたことで(政府からの国民への援助30セントを加えると1リットルあたり50セントの恩恵を受けることができる)、消費者が30%増加したことが起因しているとか様々な憶測が飛んでいましたが、そもそも消費者が30%増加したくらいでガス欠になるガソリンスタンドというのもおかしな話で、ついに、このガソリン切れの問題は、同社の製油所でのストライキが原因であることが明らかになりました。
テレビをつければ、毎日毎日、ガソリンスタンドにできる長蛇の列、給油のために1〜3時間待ちはあたりまえ、ガソリンスタンドをハシゴしながら夜中にガソリンを探し回る人々の様子が報道され、今やフランスではガソリンのあるガソリンスタンドを検索するアプリは必須アイテムなどと言われるほどで、もはや「ガソリンの価格が高いか安いか」という以前に、とにかく「給油ができるかできないか?」が問題という状況にまで達し、車がなければ仕事ができないタクシーや運送業の人々や車がなければ仕事に行けない人々などをパニックに陥れ、ガソリンの盗難事件まで起こり始め、ついには、警察、消防、救急車両が優先などというお達しがでるほどの混乱状態に陥っています。パンデミックのピーク時には、救急車が間に合わず、「今はコロナにかからなくとも、他の病気も怪我も絶対にできない・・」などと思いましたが、今は、別の理由で病気も怪我もできないことになりました。
また、このガソリン不足を機に、もうガソリンを探し回ることに疲れた人々が電気自動車のレンタルに走り、電気自動車を扱うレンタカー会社が思わぬ恩恵を受け、シェアが急増するという現象まで起こっています。エネルギー危機が叫ばれ、「今年の冬は10%の節電をすれば、なんとか乗り越えられる!」などの政府からの呼びかけで、暖房は19℃に設定しろとか、エッフェル塔の夜間照明の時間が短縮されたり、マクロン大統領自ら、タートルネックを着て節電アピールをしたりしているこのご時世、ガソリン不足で電気自動車を使うことがいいのか悪いのか?ちょっと首を傾げるところでもあります。
庶民の必需品を人質にできる勝ち組と振り回される一般庶民と貧因層
ストライキ大国のフランスでのストライキは日常茶飯事で、SNCF(フランス国鉄)、RATP(パリ交通公団)、学校、病院などのストライキなどのストライキはかなり頻繁にあり、大変、迷惑な話ではありますが、「また〜〜?」と思いながらも、ある程度は、慣れてしまっているところもあって、いちいち腹をたてていては、やっていけないので、とりあえず、子供の学校はストライキのない私立の学校にするなど、それなりに対処してきました。しかし、今回のような大規模な製油所のストライキというものは、20年以上フランスにいる私にとっても初めてのことで、日常はあまり意識することはないガソリンの有無がこれほどの大問題になる状況にはウンザリさせられます。
そもそも「ストライキの権利」と「権利の主張」は、フランス人が誇りとしているところでもあるのですが、今回のトータルエナジーズなどに関してみれば、同社の社員は、嫌な言い方をすれば、いわば「勝ち組」の人々で、平均年収が35,685ユーロ(約525万円)という優良企業。今回の賃上げ要求にしても、庶民や貧因層にとってみれば、「何の不服があって?ここまでするのか?」と納得できない人が大部分であることは言うまでもありません。このエネルギー危機の中、順調に業績を伸ばしているにもかかわらず、正当に社員に分配されないという不満はあるのでしょうが、この勝ち組の賃上げ要求のために行われている「庶民の必需品を人質にしてのストライキ」のために、影響を受けるのは、車なしには生活できない一般庶民や貧因層で、彼らが高いガソリンを使いながら、車でガソリンを探し回るという悪循環には、フランスの格差社会の悪循環が炙り出されているような気もするのです。ストライキといえば、どちらかといえば弱い立場の人々が困窮してデモやストライキをおこすものというイメージもあるところ、今回の場合は、全く強いものが弱い者を苦しめることになっているのは、本当に腹立たしいことです。
政府は、いよいよこのガソリン不足による混乱と国の機能が止まりかねない事態に、製油所労働者を徴用(最低限社会生活に必要なガソリン供給のために働くことを強制し、従わない場合は懲役6ヶ月、罰金1万ユーロという罰則つき)する措置をとることを発表し、一部の製油所は再開し始めたものの、今度は、この措置自体が反発を呼び、「ストライキをする権利を主張するストライキ」という収集のつかない事態に陥り、この混乱がおさまるのには、まだまだ時間がかかりそうです。
フランスのガソリン価格は高騰しているとはいえ、他のヨーロッパ諸国と比較すれば、格段に高騰率は低く、これは何とか国民への負担を軽減するために政府がその差額を負担していることによるのですが、現状はこのストライキのために、価格以前に供給がままならなくなるという不測の事態に陥っているのです。このストライキにより、トータルエナジーズのCGT(労働組合)は、賃上げ交渉に成功し、この11月から2023年に向けて7%プラス3,000ユーロ〜6,000ユーロのボーナスを勝ち取り、ますます高給を補償されることになりました。そのためにガソリン価格はさらに上昇して庶民を苦しめ続けるというこの悪循環が続くことになります。
ガソリン価格の高騰から国民を守るために多額の予算を割いている政府は、結局、ある程度は価格は上がっているにせよ、国民が変わりなくガソリンを消費できることで、このような会社の売上に貢献しているわけで、一体、どちらを援助しているのかと疑問にさえなります。そのうえ、このストライキですから、政府も国民もたまったものではありません。
また、このトータルエナジーズは、14日、「ウクライナを爆撃したロシア軍機への燃料供給に加担し、戦争犯罪での共謀行為に及んだ」として、フランスやウクライナの団体から仏国家テロ対策検察庁に同社の追訴を求める訴状を提出されています。
これまで経験したこともなかった大規模な製油所のストライキ。ストライキをする側からしたら、この戦禍でエネルギー危機の中、国民の不安を煽り、混乱を起こすタイミングとしては絶好のタイミングではあったかもしれませんが、ロシア軍機に燃料供給をしながら、国内ではストライキを起こしてガソリンの供給をストップして、一般市民を窮地に陥れているとしたら、とんでもない「勝ち組」会社だと嫌悪感しか湧いてきません。一般庶民ができることは、せめてこの騒動がおさまっても、「トータルでは給油しない」という抵抗くらいかもしれません。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR