スタートアップ超大国 インド~ベンガルールからの現地ブログ~
スタートアップ・エコシステムランキングからみるベンガルール
毎年、各調査会社がスタートアップエコシステムのランキングを出して、起業環境やエコシステムの動態について評価しています。
私が住んでいるベンガルールもランキングに出てくるので、「どんな基準で選定されているのだろうか?」と思う次第です。
というのも、例えば、以下2つのランキングではベンガルールの順位が異なってきているからです。
Global Startup Ecosystem Report 2021(米国ースタートアップ・ゲノム、グローバル・アントプレナーシップ・ネットワーク):23位
Global Startup Ecosystem Index 2021(イスラエルースタートアップブリンク):10位
[参照リンク]
個人の感覚ベースな話をすると、スタートアップ・ゲノム社のランキングだけを見たところ、「資金流入も中国からシフトしてきてかなりの額がインドに投資されて、更にエコシステム全体としてもリビングウィズコロナで発達してきたはずだけど、この順位なのはやはりアメリカや先進国の方がまだまだスタートアップエコシステムとしての層は厚いということなのか・・・・?」となるのです。
ということで、今回の記事では、2つの異なるランキングからベンガルールがどんな切り口から評価されているのか見てみましょう。
(パッと見だと、インド国内ではベンガルールが一番の評価を受けているようです。)
1.Global Startup Ecosystem Report 2021
このランキングでは、以下指標で評価されていたようです。それぞれの定義を見てみましょう。
Peformance:スタートアップの市場価値(バリュエーション)、EXIT、シリーズを上げたスタートアップ数、エコシステムそのものの価値
Funding:投資家へのアクセスのしやすさ、投資家のクオリティ、経験
Connectedness:繋がりやすさを示し、ミートアップ数や起業するためのインフラ(R&D等)が充実しているかどうか
Market Reach:どれだけスケールすることができるか、IP(知的財産権)を使ってスケールできるかーエコシステムにおけるスケールアップとユニコーンの機能。評価額10億ドル以上企業のGDPに対する比率、10億ドルの出口のGDPに対する比率、大規模なEXITの資金調達に対する比率(シリーズAラウンドに対する5,000万ドル以上のEXIT)で測定。
Knowledge:R&D活動、特許活動の充実度
Talent:どれだけテック人材、ライフサイエンス人材にリーチしやすいか、また経験豊富であるかどうか
参照元:米民間調査、2021年世界の都市別スタートアップ・エコシステム・ランキングを発表(米国) | ビジネス短信 - ジェトロ (jetro.go.jp)
[上位:ランキング表]
1位 シリコンバレー
2位 ロンドン、ニューヨークシティ
4位 北京
5位 ボストン
6位 ロサンゼルス
7位 テルアビブ
8位 上海
9位 東京
10位 シアトル
11位 ワシントンDC
12位 パリ
13位 アムステルダム
14位 トロント、シカゴ
引用元:Startup Genome
上記の指標とレポートを踏まえると、ベンガルールは以下の点で評価・分析されたようです。()内は私の感想です。
・スケールアップしたスタートアップが多い。(確かに、最近ユニコーン化した企業やラウンドあげたスタートアップが多い。)
・アーリーステージ向けの投資アクセスが良好。(シードVCも十分いる印象。殺到するスタートアップが多い。)
・IP戦略による成長には課題が残るが、ライフサイエンス分野の特許の量は多い。(バイオ系強いベンガルールならでは)
・ミートアップは豊富で接続度は高い。(イベント数が多すぎて追いきれない、確かに。)
・人材のコストパフォーマンスはぴか1だが、クオリティに課題が・・・(格差問題があるのは事実。)
2.Global Startup Ecosystem Index 2021
続いてこちらのランキングも見てみましょう。評価指標は以下の通りです。
Quantity:スタートアップ企業の数、コワーキングスペース(Coworking Spaces)の数、アクセラレーターの数、スタートアップ関連のミートアップの数
Quality of startups and other supporting organizations:トラフィック、国際的なテクノロジー企業の支社や研究開発センターの存在、多国籍企業の支社(例:WeWorkスペース)の存在、スタートアップエコシステムに対する民間企業の投資総額、スタートアップごとの従業員数、ユニコーン、エグジット、パンテオン企業の存在、グローバル・スタートアップ・インフルエンサーの存在、グローバルなスタートアップイベント(例:WebSummit)
Business enviorment:ビジネスのしやすさと企業登録のしやすさ、インターネットの速度、インターネットの自由度、研究開発投資、様々な技術サービスの利用可能性(決済ポータル、ライドシェアアプリ、暗号通貨)、一人当たりの特許数、英語の習熟度
[ランキング]
1位 サンフランシスコ(ベイ)
2位 ニューヨーク
3位 北京
4位 ロサンゼルス
5位 ロンドン
6位 ボストン
7位 上海
8位 テルアビブ
9位 モスクワ
10位 ベンガルール
11位 パリ
12位 シアトル
13位 ベルリン
14位 ニューデリー
15位 東京
16位 ムンバイ
講評等を見るに、インドのエコシステムの成長性に対してアメリカ合衆国に次ぐものと評価されており、中国勢よりも多くランキングに食い込むことが出来ている点で勢いがあると見られているようです。
個人的な感想としては、ベンガルールはインフラ面についてはやや課題が残るものの、物量面の指標(スタートアップ数、ミートアップ数、外資系のR&D拠点数)を前面に押し出して上位に上って行ったような印象を受けました。
このように2つのランキングからベンガルールがどう評価されているか見てきましたが、1のランキングではベンガルールよりも上位についている東京、パリ、シアトルが2のランキングでは、ベンガルールよりも下位になっていたりと、ランキングの指標によってエコシステム評価がここまで変わるものなのかと改めて感じるとともに、外から見られたベンガルールがどんなものなのか客観的な視点も評価項目から見ることができました。
これらの切り口はインド都市間の比較でも応用できそうなので、今後活用してみます!
著者プロフィール
- 永田賢
Sagri Bengaluru Private Limited, Chief Strategy Officer。 大学卒業後、保険会社、人材系ベンチャー、実家の介護事業とキャリアを重ね、2017年7月に、海外でのタフなキャリアパスを求めてYusen Logistics India Pvt. Ltdのベンガルール支店に現地採用社員として着任。 現地での日系企業営業の傍ら、ベンガルールを中心としたスタートアップに魅せられ独自にネットワークを構築。2019年4月から日系アグリテックのSAgri株式会社インド法人立ち上げに参画、2度目のベンガルール赴任中。
Linkedin: https://www.linkedin.com/in/satoshi-nagata-42177948/