シリコンバレーと起業家
シリコンバレーに人は戻ってくるのか
──今後コロナウイルスによるパンデミックが落ち着いた後、人々の生活スタイルや働き方はどうなっていくと思いますか。(聞き手:中屋敷 量貴)
内藤:まずはコロナがどれくらい長引くのか、ワクチンがいつ完成して、いつみんながまた安心して暮らせるようになるのかはまだ分かりませんが、遅かれ早かれそういう日がくるとすると、私は大部分の人が以前のような生活に戻るのではないかと思います。とはいえ、一部の人はコロナ後もリモートで働き続けたり、住む場所を変えながら働くというノマド的な生活を続けるのではないかとも思っていて、それが全体から見たら比較的少ない割合だとしても、その人たちの働き方の変化は歴史的な変化で、リモートワークやノマド向けの事業には大きな市場規模が生まれると思います。
EC(Eコマース)で例えていうと、インターネットが誕生してEC市場が生まれて10年、20年が経過している中で、EC化率は色々な機関がデータを出しているので一概には言えませんが、それでも数%から10%とかじゃないですか。人々がこれだけインターネットを使っている世の中になっても、ECを通じて何かものを買うというのはそれくらいの割合で、残りの9割はリアルで取引されているんです。しかし、その10%程度の規模でもかなり大きな市場規模があり、人々のライフスタイルを変えるほどの大きなインパクトを与えています。
リモートワークにも同じことが言えるんじゃないかと思っていて、今回のコロナウイルスのパンデミックが落ち着いた後に全体の中で引き続きリモートで働いている人の割合は一桁%かもしれませんが、たとえそうだとしてもその割合は、人々の働き方を変える大きなインパクトのある割合だと思います。これは弊社Anyplaceのようなノマド向けのプロダクトや、リモートワークを前提としたSaaSのプロダクトにとっても大きな市場機会を生み出すことになるのではないでしょうか。
──以前、次世代の起業家に向けたメッセージで、シリコンバレー・ベイエリアで起業して2年から3年じっくり時間をかけて事業を作っていく心構えが大事だと言っていましたが、今はアクセラレーターやミーティングなど、ほとんどの活動がオンラインで完結すると思います。それでもベイエリアを拠点にするべきなのでしょうか。
内藤:短期的にみたら今シリコンバレー・ベイエリアにいる意味はないという意見はあると思います。現在はコロナウイルスの影響で対面でミーティングをし難いですし、多くの人がシリコンバレー・ベイエリアから出ていっているので、直接会える人も減っています。しかし長期的にみたら、ベイエリアが世界のテクノロジー産業の中心にあり続けると私は考えています。ベイエリアの強みのひとつはこの土地にいる起業家や投資家、またスタートアップで働く人材の繋がりです。ここで繋がりを作った人達が出て行ってるわけですが、全員が出ていっているわけではありませんし、親密な繋がりがこの地にあるからこそ、彼らが定期的にベイエリアに戻ってきたり、家賃が下がったことを理由に、再度ベイエリアに引っ越すということが起こると思います。また、ベイエリアにいる顧客は、他の土地に比べて新しいプロダクトを受け入れることに抵抗がない、むしろすすんで新しいプロダクトを試す土壌があることには変わりないので、以前スタートアップにとって魅力的な場所であり続けると思います。
著者プロフィール
- 内藤聡
Anyplace共同創業者兼CEO。大学卒業後に渡米。サンフランシスコで、いくつかの事業に失敗後、ホテル賃貸サービスのAnyplaceをローンチ。ウーバーの初期投資家であるジェイソン・カラカニス氏から投資を受ける。ブログ『シリコンバレーからよろしく』。@sili_yoro