パスタな国の人々
チーズ界のロールスロイスを食べる
ベッテルマットの牧草地でできあがったチーズは、最低2ヶ月の熟成期間を置いてやっと、ベッテルマットとは呼ぶことができる。山へ連れて行ってくれたチーズ熟成士のジョバンニさんが営むチーズショップで、できあがったベッテルマットを味見させてもらい、取材をコンプリートする予定だった。ところがコロナの第二波が襲ってきて、ロックダウンになり、トリノとは別の県にあるジョバンニさんの店に行くことができなくなってしまった。
クリスマスを目前にしたある日、うちに小さな小包が届いた。パッケージには「ルイジ・グッファンティ」の文字。イタリア国内でも、上質なチーズを扱うことで知られるジョバンニさんのお店の名前だ。中には完成したばかりの2020年のベッテルマットと、1年もののリザーブが入っている。さっそくいただいてみると、できたての方はまだ少し柔らかく、草の香りが鮮烈だ。そして1年ものの方は、ほっこりと甘い焼き栗のような歯触りと濃厚な味わいの中に、やっぱり爽やかな高原の風を感じる香りがした。ロールスロイスと呼ばれる意味が少し、わかったような気がした。
ベッテルマット。左が1年経ったリザーブ。右が去年の夏のもの (写真。上2点とも著者撮影)
著者プロフィール
- 宮本さやか
1996年よりイタリア・トリノ在住フードライター・料理家。イタリアと日本の食を取り巻く情報や文化を、「普通の人」の視点から発信。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」でのコロナ現地ルポは大好評を博した。現在は同ブログにて「トリノよいとこ一度はおいで」など連載中。