スペインあれこれつまみ食い
マスク汚職と脱税 悪いのはどっち?独立派恩赦法から始まったどんぐりの背比べ
今月14日、スペイン下院はカタルーニャ自治州の独立派に対する恩赦法を可決しました。スムーズにいけば上院を通したのちに5月末にも施行される予定です。この結果を不服に思っている野党は、最近浮き彫りになった与党関係者の汚職問題について問い詰め与党の顔に泥を塗る作戦に出ますが、与党側も負けじと野党の主要メンバーの脱税疑惑で対抗します。
犯罪をなかったことにする恩赦法
カタルーニャ独立派が違法に行った独立運動をすべて「なかったことにする」という今回の恩赦法。国会内で行われる1回目の信任投票で政権続投のために7票足りなかったサンチェス首相は、これらの独立運動で有罪判決を受けたカタルーニャ独立派関係者らを無罪にすることを条件に2回目の信任投票で独立派から賛成票を投じてもらうことによって今回の選挙に勝利しました。当選が決まってからサンチェス首相は独立派と話し合いを重ね1月末に最初の恩赦法の法案を提出しますが、内容に納得がいかない点があるとして独立派はこの法案に反対票を投じます。その後サンチェス首相は更に恩赦法の適用範囲を広げるなどの改正を行い2度目の法案を提出。今回は内容に満足したのか、独立派もこの法案に賛成票を投じ、賛成178票、反対172票で法案は可決されました。
この恩赦法によって現在指名手配中で国外逃亡しているプッチデモン元カタルーニャ州首相は「そもそも罪を犯していない人」としてこの法が施行後スペインに帰国し、独立運動を継続することが可能となります。また投獄された関係者は前科がつくことなく釈放され、罰金を払った関係者はその罰金の返金を求めることができるようになるのです。
やっと恩赦法が可決され一息つけると思ったであろうサンチェス首相ですが、やりたい放題の首相に野党も黙ってはいません。先月からサンチェス政権下で行われていた汚職問題が浮き彫りになり、野党らはこれはチャンスとばかりに与党に攻撃を始めました。
コロナ渦を利用したマスク汚職
時は遡ってパンデミック渦中。スペインも例外ではなく各地からマスクや手袋などの医療用物質を大量に輸入する必要がありました。それらの受注を担っていたのが政府関係者のコルド・ガルシア氏。コルド氏は当時の交通省ホセ・ルイス・アバロス元大臣の顧問であり、ボディガードであり、さらに専属ドライバーを勤めるほどアバロス元大臣から信頼されていた人間でした。しかしこのコルド氏や業者らはこれらの医療用物質を売買する際に違法なコミッションを受け取っていたのです。高額なお金を手にしたコルド氏はこの後、国内各地に複数の不動産を購入。関係者らも海外の口座にそのお金を移すなどして隠蔽を図っていました。この件でコルド氏とその妻を含む20人が逮捕され、現在詳しい捜査が行われています。大量の国税が関係者らに流れたこの事件、さらに残念なことに購入したマスクの95%が使用期限が切れており使われることはないといいます。コルド氏の上司にあたるアバロス元大臣はこの出来事の関与を否定していますが、サンチェス首相の右腕とも言われてた人物の側近が起こした汚職事件ということで、最終的にサンチェス首相はアバロス元大臣を社会労働党から追い出し、この件を政権批判に利用されるのを防ごうとしています。
恩赦法や汚職事件を出汁に散々野党から攻撃を受けている与党。その後反撃とばかりに野党の議員に狙いを定め批判を始めました。
州首相の交際相手の脱税
現在、与党の批判の的とされているのは右派 国民党所属でマドリード州のトップを務めるイザベル・アユソ州首相。今回彼女の交際相手であるアルベルト•ゴンザレス氏の脱税が発覚し、アユソ州首相は複数の与党議員から辞任を求められているのです。
税務署の調査によると、衛生管理者として会社を経営するゴンザレス氏は2020年と2021年の2年間で約35万ユーロもの脱税を行なっていたとのこと。あたかも出費があったかのように架空の領収書を作成し一部の税金の支払いを逃れていた脱税と文書偽造の疑いがかけられているのです。ゴンザレス氏は脱税したとされる翌年の2022年7月にマドリードの一等地にマンションを購入しそこにアユソ州首相と一緒に住んでいるのですが、「脱税したお金で購入した豪邸に住むなんて!」と与党から批判の声が絶えません。アユソ州首相は、サンチェス政権は自らのスキャンダルを隠すためにゴンザレス氏を利用していると反発。「サンチェス首相自身が汚職に塗れているという事実は私に何千回辞任を要求したとしても隠せるものではない。サンチェス首相は私を個人的に破壊に追い込むことでバランスを保つ方法を模索しているが、この場で唯一破壊していっているのはサンチェス首相本人だけだ」と、強気に対抗しています。
醜い足の引っ張り合い
現在、スペインの国会議員らは恩赦法、汚職、脱税をネタに反対党の足の引っ張ることに必死。「マスク汚職 VS 州首相の彼氏の脱税」というどっちもどっちな問題について、連日汚い言葉で罵り攻撃し合う様子は見ていて呆れてしまうほどです。
そんな中、政治家らが本来取り組まなければいけないであろう深刻な問題を抱えた農業従事者たちは17日再び大規模な抗議活動を行いマドリードの中心地にトラクターを引き連れ集結しました。果たして彼らの悲痛の叫びは罵り合いに夢中な政治家らの耳に届いているのでしょうか。もしかすると政治家らはこう言った本来向き合わなければいけない問題から目を逸らすために、このような過去に起きた事件の悪口を延々と言い合っているだけなのかもしれません。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon