ベネルクスから潮流に抗って
こんな自転車、見たことある?輸送用自転車シェアリングを使ってみる
新しい交通省の大臣(Georges Gilkine)はベルギーの交通政策をどうやら本気で変えようとしているようだ。すべての鉄道の駅に土日、オフピーク時間も含めて毎30分 (大都市では10分に一本)電車が到着するようにベルギー国鉄SNCBに投資をすると発表した。30分に一本って普通じゃない?っていうか、ベルギーのような小さな国で30分に一本、電車がないの?と日本の人は思うだろう。私もそう思う。
ベルギーに来て一番驚いたことに一つは、ガチガチの車社会であることだった。さしたる車産業もない小国で、どうしてここまですべての人にとって車が大切で、生活の中心で、鉄道が軽視され、欧州一の大気汚染国であることを許し続けているのか、私は深く強く疑問に思っている。もちろん歴史的な都市計画と政策が大きく関わっており、車文化が深く社会と人々の心に浸透しているわけだが、それは次の機会にふれよう。
今日書きたいのは私の住んでいる街(LEUEN)での前向きで小さな変化について。ソフトなロックダウンが5週目に入ろうとしている。子どもの習い事も、スポーツもスポーツ観戦も飲み会も会食もショッピングもない週末ははっきり言ってひまである。夏のロックダウンではガーデニングや菜園にいそしむ人も多く、テラスで飲むワインもおいしかったが今はそれもない。だれでも、しなくてはいけないのに普段できていないことを、この際やろうと思う。私の場合、粗大ごみをリサイクルコンテイナーに持っていく、となる。
解体したトランポリン、巨大な発泡スチロール、不要な木材などがガレージを占領していた。リサイクルコンテイナーパークは各地域にあり、電池や蛍光灯、家電、携帯などリサイクル可能なものやペンキや粗大ごみなどを普通の回収に出してはいけないものを持ち込む場所だ。アイディアはいいのだけど、この仕組みは個人が車や免許を持っていることを前提としている。
うちは車がなくて、しかも私も連れ合いも運転免許も持っていない。なのでレンタカーもできず、リサイクルコンテイナーの壁が高いのだ。ところで、車を持っていないとベルギー人に言うと、10人中10人が「信じられない、どうやって生活しているの」と宇宙人を見るように目を丸くして聞いてくる。私は逆に聞く。「どうして車なしで生活できないの。」
実際、私が本当に困るのは数年にいっぺんのこの粗大ごみの持ち込みのみだ。緑の党が連立に入って以来ルーベン市は様々な新しい環境の取り組みが始めた。その一つがこのカーゴー自転車の貸し出しだ。オランダではbakfiets(訳は箱自転車、輸送用自転車)として昔から広く使われている。検索するといろいろなタイプのbakfietsが出てくる。小さな子ども、2,3人を乗せて移動するのに使う人も多い。最近では多様化、高級化、電動化し、電動bakfietsは4000ユーロ(43万円)近くもする。
毎日の生活に使う人でなければ、使いたいときだけ借りられるのがいい。市が輸送用自転車の貸し出しポイントが街に6つ作ったと聞いて、さっそく登録。そしてこの週末に粗大ごみを乗せてリサイクルコンテイナーパークへ搬入するこができた。やった。
カーゴ―部分が子どもを乗せるフカフカのクッションになっており、意外に輸送機能が低く3回往復しなくてはいけなかったが。レンタル料は1時間で2ユーロだった。市が補助金を出して一部の費用を負担しているようだ。
ルーベン市は数年前に先駆けて2030年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を宣言している。特に去年の選挙で社会党と緑の党の連立が実現し、取り組みが加速している。輸送用自転車のシェアリングはその小さな一つ。これから他の取り組みも紹介したい。鳴り物入りのヨーロッパグリーンディールは各国、各都市の地道な取り組みなしには成立しない。
著者プロフィール
- 岸本聡子
1974年生まれ、東京出身。2001年にオランダに移住、2003年よりアムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員。現在ベルギー在住。環境と地域と人を守る公共政策のリサーチと社会運動の支援が仕事。長年のテーマは水道、公共サービス、人権、脱民営化。最近のテーマは経済の民主化、ミュニシパリズム、ジャストトランジッションなど。著書に『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(2020年集英社新書)。趣味はジョギング、料理、空手の稽古(沖縄剛柔流)。