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NYで生きる!ワーキングマザーの視点

ベイリー弘恵|アメリカ

NYで子供たちの自主性を大切に、本物の日本を知ってもらうための教育を行う「Alto日本語補習校」

©Alto日本語補習校 校長の中村さんと生徒さん

中村健人さんと出会うまで、日本から来て、私立の学校をニューヨークで創設することができるって知らなかったのだが、Z会グループは、グランドセントラル駅のあるマンハッタンのど真ん中に、Alto日本語補習校を創設し、2年半になるという。

同校の校長である中村さんのお話を伺って、結論からいえば、うちの子供たちもこういう日本語補習校に通えていれば、もっと日本語が上達していたのかもしれないって思った。

Alto日本語補習校を、補習校というのはなぜですか?塾ではないのですか?

「塾というと受験準備のイメージが強いですが、当校では文部科学省は配布する教科書を用いて、日本語や算数の学習をサポートしています。そういった雰囲気を正しく伝えるのには塾よりも補習校の方が適していると考えています。」

Alto日本語補習校の特徴はどういうところですか?

「子供が自分で進めるというのが本校の特徴です。子供たちが登校すると、まず自分で時間割をつくります。今日勉強するのは何かを子供たちが決めて、それに沿って勉強していきます。宿題についても先生から一律に出されるのではなく、子供たちが自分で決めるのです。自分がやるという量を家へ持って帰ります。」

では、先生はどういったことを教えるのでしょうか?

「教員は教えるというよりも、子供たちが学習をするサポートをします。一緒に学習のプランを考えたり、わからないところがあれば解説したりします。」

うちの子供たちも、ニューヨーク補習授業校へ小学生の時に通っていましたが、半ば強引に親から通わせられているからか、登校前に「行きたくない」と泣きながら通ったこともありました。それでも結果的には少しだけ日本語や、日本人の学んでいる算数などの勉強ができるようになっていたので、大人になってから感謝されました。

Altoでの子供たちの勉強はどんな感じなのですか?

「子供たちの主体性がメインなので、子供たちが自分で何をするのかも決めます。どうやって進めていくのかも自分で決めます。漢字を学ぶことも自分に合ったやり方を選択します。自分のペースで子どもたちがそれぞれ勉強するので、授業についていけないということがシステム上ありません。それがやりたくて学校をつくりました。

子供って放っておくとサボるのでは?と思いがちですが、自分でやるとなると、逆なのです。やらされると逃げようとしますが、決定権を子供に移すと、意欲を見せるんです。

だから、普通より早く進んだり、いっぱい宿題を持って帰ったりして、だんだん楽しくなることを味わう子がでてきます。

これは私がよくする話なんですが、子供が大好きなゲームでも、主体性を奪ったらつまらなくなるんですよ。ゲームをしている子供の隣に親が座って、『次は右に行きなさい、リセットしてここでやり直しして、正しい姿勢でね!』って親が関わると、ゲームもつまらなくて、子供がやらなくなる。

勉強でも同じことが起こるのです。子供の主体性を奪ってしまうと、つまらなくなるから、それはやめようというのがモットーです。主体性を戻してあげたら、新しいことを知るのは楽しいし、レベルアップするのは楽しい。そうやって楽しんで勉強してほしいですね。」

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では、親はどうすればよいのでしょうか?学校へ通わせるしか術がないですよね。

「子供に対して◯◯しなければならないって親は期待しますが、強制するのが子供にとって一番つらいことなので、サポートすることが大切です。

中学校や高校へ行くと、親の力ではどうにもできなくなって、先生やクラブの先生のように、師匠となる人が変わっていきますよね。どういう先生に会うかは大事だと思います。その子の能力を生かせる場所へ連れて行ってあげることが、親の役目です。それ以上は、親にはできないのかもしれません。」

補習校のウェブサイトを見ると、楽しそうなアクティビティーが多いですよね。牧場の写真とか、子供たちが楽しそうにしていますね。

「それはサマースクールの活動で農場に一泊したときの写真ですね。そういう季節ごとのスクールでは和菓子をつくったこともあります。自分で作った桜餅を持って公園へ行って、お茶を点ててそれと一緒に食べる。

子供たちはとても喜んでいましたし、公園にいた周りのアメリカ人もとても興味をもっていたようです。本当は、補習校ではなく、全日制の学校にしたいと思っています。もっと現地の人にも来てほしい。第二言語に日本語を学びたいという子どもたちに通ってもらえるといいですね。」

そのためにはもっと目立った日本の文化を入れるといいかもしれないですね。

「そうですね。実際にこれまでに金継ぎや陶芸もやりました。やるからにはより本物に近い形で体験してほしいので、たとえばカレーを作るとしても、スパイスから調合して本格カレーを作ったこともあります。ソーセージも羊の腸からつめました。それを幼児も一緒にやるんです。年齢別のクラスにしていないので、幼稚園から小学6年生までが同じものを作っています。」

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校長先生が、そうしたカリキュラムを決めるのですか?

「私だけが決めているわけではありません。一人ひとりにとって最適な学習を実現するという同じ志をもっている教員を採用しているので、教員から意見があがることも多いです。学校ができてまだ2年半なので、それらのアイディアがもっと色々な方向へ膨らんでいくと思います。」

先生は子供たちとどういった関わりがありますか?

「教員が子供を子供扱いしないというのは、徹底できています。今日は勉強したくないという子供に対して、促しはしますが、決して強制はしません。大人も仕事をしたくないって日もあるじゃないですか?子どもだってそれと同じなのです。

勉強したくないという気持ちに寄り添って、認めて、感じてあげます。やりたくないという気持ちを否定するのではなく、そう感じていることを認めるのです。対等に話ができないと、子供たちは、この人の話を聞きたいなって思えないのです。

そうして安心できる関係を作っていくことで、子供たちが学習に向かえるようにしていきます。」

先生が一人一人の生徒さんに向き合うことは大切ですね。どのくらい教員がいるのですか?

「生徒が8人に教員が1人を基準に始めましたが、実際には生徒が4人に教員が1人です。教員と生徒の比率がどんどん近づいてきました。それは、教員を増やしているからです。子供たちは、誰かに見てもらえていると感じると、燃えるんですよね。だから、子供たちの変化や、学力の伸びも見落とさない仕組みをつくろうとすると、自然と教員を増やす方向に動いてしまいました。」

中村さんは、Alto日本語補習校の校長先生ですが、子供たちに教えているのですね。

「はい、先生もやっています。もともと教えることがやりたくてこの世界に入ったので、そこは譲れません。」

日本で教育者になったのはいつ頃からですか?

「大学時代から予備校で生物を教えていました。卒業後はイギリス留学から戻った後、東京都の公立中学校で理科を教えていました。その後、ニューヨークに来て色々な教育に携わりました。教えることが好きだったので、それ以外の道は考えられないですね。」

中学校教員としてのやりがいはありましたか?

「中学校で働いていたときは、教員の中でも若かったからか、生徒との距離が近かったので、進路の相談はもちろんですが、勉強以外のことで、人生相談じゃないけど、悩み事や友達関係の相談にものったりして、その関わり方がいろいろと楽しかったです。

23歳だったので、生徒たちの気持ちもわかるし、ほかの先生の気持ちもわかるので、橋渡し的な緩衝材になるような働きをしていました。」

では教育以外に頑張っていることは何ですか?

「最近はスポーツジムに通っています。学校の企画でハーフマラソンに出たことがあって、その様子はYouTubeでも公開しています。先生も何かに挑戦する姿を子供たちに見せるのが大事だと思って。それがきっかけで、ハーフマラソンは今年で3回目になりました。」

生徒だけに宿題を課すのではなく、教員もチャレンジするという精神!素晴らしいと感じた。いろいろな事にチャレンジできるのは、いくつになっても年寄り扱いされることのないニューヨークという土地柄も助けているような気がする。

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【プロフィール】Alto日本語補習校校長 中村健人(なかむらたけと)

東京学芸大学卒業後、イギリスへ留学、東京都中学校教諭を経て渡米。アメリカでもさまざまな機関で教育に従事し、バイリンガル教育や帰国受験の最前線で経験を積む。コーチングのメソッドを応用した授業により、子どもたちの主体性を高める授業に定評がある。Alto日本語補習校の校長だけではなく、Z会・栄光ラーニングセンターの責任者、他にも保護者向けのコーチングセミナーの講師を務める。





 

Profile

著者プロフィール
ベイリー弘恵

NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。

NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com

ブログ:NYで生きる!ベイリー弘恵の爆笑コラム

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