コラム

2022年米国連邦議会中間選挙を左右する、意図的な選挙区割り「ゲリマンダー」

2021年10月12日(火)17時38分

ホワイトハウスは党派色が強まる連邦議会との対峙を今後も余儀なくされる...... REUTERS/Evelyn Hockstein

<ある政党の支持者を特定の選挙区に押し詰めて、その他の選挙区ではもう一方の政党候補者が総体的に多く当選するように選挙区割りを確定させる「ゲリマンダー」が横行するようになる>

米国連邦議会中間選挙まで約1年、米国では共和党・民主党の議会議員候補者の席を巡って予備選挙が本格化しつつある。共和党内ではトランプ系と非トランプ系の候補者の内紛は依然として継続しており、民主党内ではバイデン系の中道候補者に対して党内左派からの圧力が高まっている。両党ともに複雑なお家事情を抱えていることは間違いない。

ただし、連邦下院議員選挙に関しては全く別の要素で勝敗が決まる可能性が濃厚だ。2020年の国勢調査にしたがって、連邦下院の選挙区が変わる影響が極めて大きいからだ。

州議会が選挙区の線引きに関する決定的な役割を担っている

米国の下院議員選挙は完全小選挙区制である。つまり、各選挙区から1名のみが選出される選挙制度であり、日本のように比例代表制は存在していない。したがって、共和党・民主党のいずれかの党派の支持者が多い選挙区では、最初から議員が選出される政党ことがほぼ確定している状況となる。

そのため、ある政党の支持者を特定の選挙区に押し詰めて、その他の選挙区ではもう一方の政党候補者が総体的に多く当選するように選挙区割りを確定させる「ゲリマンダー」が横行するようになる。

たとえば、共和党・民主党の人口比率が①3:2、②2:3、③1:4という民主党が2勝できる3選挙区があった場合、①4:1、②3:2、③0:5と選挙区支持者の人口比率に従って再振り分けすると共和党が逆に2勝するといった具合だ。

選挙区の線引きのためのルールは各州の制度によって規定されているが、大半の場合は州議会が線引きに関する決定的な役割を担っていると考えて良い。それ以外の要素としては司法が州議会に対する歯止めとなるケースもある。

実際、共和党州議会が2010年代にフロリダなどの幾つかの州で仕掛けたゲリマンダーを民主党側が司法を使って却下しなければ、2021年現在の民主党下院支配は存在しなかっただろう。

特定の党派に偏った選挙区が増加する

共和党は2020年の人口統計に基づいて議席割当て数が増加する南部諸州の州議会において相対的に優位な勢力を築いており、更に連邦裁・州裁の保守化を進めることに成功している。そのため、共和党側は多くの州で民主党支持者を州都周辺の一部のエリアに押し込め、農村エリアが左傾化する郊外部を希薄化させて強引に下院議席を伸ばすことができる。その結果として、選挙区の見直しを通じて最大15議席程度を民主党から奪う可能性がある。

一方、民主党は自らが圧倒的優位に立つニューヨーク州の選挙区割りを恣意的に行うことで不利な状況をひっくり返すことを狙うことになるだろう。民主党側はニューヨーク州では最大5議席、その他の民主党優位州で更に3~5議席程度を共和党の手から奪い取る可能性があると見られている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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