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トランプ支持の強力なパワーの源は、白人を頂点とする米社会の「カースト制度」
労働者階級の白人だけがトランプを支持しているのではない Carlos Barria-REUTERS
<本書の重要な指摘は、カースト最上層にいる者は制度を守るためなら何でもやるということ>
筆者はドナルド・トランプが共和党の予備選に出馬した2015年から接戦区のニューハンプシャー州などで大統領選を取材し、「トランプに熱狂する白人労働階級『ヒルビリー』の真実」といった記事で報告してきた。そして、2016年の大統領選挙で起こったことを『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)という本にまとめた。
得票数ではヒラリー・クリントンの6585万3625票 (48.0%)に対してトランプ6298万5106 票(45.9%)とクリントンのほうが多かったのにもかかわらず、選挙人制度によってトランプはクリントンに圧勝した。
クリントンが敗北した理由を多くの専門家が分析してきたが、特にリベラルの側から聞こえてくるのが、「白人労働者への配慮が足りなかった」、「(人種、ジェンダー、性的指向といった)アイデンティティー・ポリティクスをしすぎた」というものだ。メディアによってそのナラティブ(物語、語り手の見立て)が広まったせいか、アメリカに住んでいない日本人から「食べる余裕もないアメリカの貧困層にとって、民主党候補が重視するLGBTQ、人種差別、女性の人権などの問題は、はっきり言ってどうでもいい。経済格差が分断の原因だと認めないかぎりは、分断はなくならない」とソーシャルメディアでマンスプレイニングされたこともある。
そういったメディアのナラティブに対して、レベッカ・ソルニットは著書『それを、真の名で呼ぶならば』(邦訳・岩波書店刊)の「ミソジニーの標石」で反論している。アメリカでは男女どちらにも本人が自覚していないミソジニー(女性への嫌悪)があり、それが、リベラルを自称する男性も抱えている「ヒラリーには我慢ならない」という感情につながっている。それを認めるかわりに、彼らは別のもっともらしい理由を探してきたというものだ。
トランプを支える「裕福な白人」
筆者は1995年にアメリカに移住し、2003年から民主党と共和党の両方の大統領選の集会に参加して観察し、いろいろな立場の有権者から話を聞いてきた。だからこそ、「アメリカの白人労働者階級に食べる余裕ができたら、LGBTQ、人種差別、女性の人権などの問題を配慮することができる」という意見に同意することはできない。というのも、ウォール街の金融関係者や、企業の重役など、収入がアメリカのトップ1%以上に属する特権階級の白人には隠れトランプ支持者がかなりいるからだ。トランプの集会に行ったり、テレビの取材に応えたり、目につく場所でトランプを支持している多くは「白人労働者階級」かもしれない。だが、政治献金をして陰でトランプを支えているのは「裕福な白人」なのだ。
大統領に就任してからのトランプは、数え切れないほど多くの嘘をつき、スキャンダルを起こし、政府機関の専門家を侮辱し、下院で弾劾され、パンデミックの指揮に失敗して大量の死者を出し続け、憲法で保証されている市民の抗議活動を武装した政府職員に鎮圧させて状況を悪化させている。共和党が敵視してきたロシアや北朝鮮の独裁者に媚びを売り、捕虜になったり死んだりした兵士は「loser(負け犬)」で「sucker(騙されやすいばか)」だと言っていたことも明るみに出た。
これまでの大統領であれば、このうちたった1つのスキャンダルでも失脚しただろう。だが、トランプの支持率は以前とほとんど変わらない。これまでの大統領の支持率は、たとえばジョージ・W・ブッシュ元大統領のように80%台から40%台に上がったり下がったりするのが普通だった。けれども、トランプの場合は就任以来ずっと40%前後で、どんなスキャンダルがあっても低いままで安定している。
リチャード・ニクソンやビル・クリントンを含め、倫理的なスキャンダルを起こした大統領はこれまでにもいた。だが、これほど徹底して倫理観に欠ける大統領は、近年の歴史ではトランプ以外には考えもつかない。それなのに、婚前交渉を禁じて性教育も許さないほど厳格な「ファミリーバリュー(家庭重視)」を売り物にしているキリスト教保守派の指導者たちは、いまだにトランプを強く支持している。部外者にとっては、不思議でならない現象だ。
この現象を分析する記事や本をいくつか読んだが、その中でもっとも納得できたのが、イザベル・ウィルカーソンの『Caste: The Origins of Our Discontents』(カースト:アメリカの不満の源)だった。
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