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【2020米大統領選】ベーシック・インカムを唱えるアジア系候補アンドリュー・ヤング
ニューハンプシャー州の選挙イベントで聴衆に語り掛けるヤング(左) 筆者撮影
<ベンチャー起業家のヤングが、多くの人々の仕事をAIが奪う未来を憂いて提唱する「ヒューマン・キャピタリズム」>
2020年米大統領選の予備選がすでに盛り上がっていることを前回の記事で語った。
この中で、政治の未経験者でありながらインターネットで情熱的な支持者を集めている民主党候補がいる。ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)を強く推している44歳のアジア系アメリカ人、アンドリュー・ヤングだ。
ヤングが「フリーダム配当金(Freedom Dividend)」と呼ぶUBIは、18歳から64歳(社会保障での通常の引退年齢の設定が65歳だから)のアメリカ市民全員に毎月1000ドル(約11万円)を支給するというものであり、世界で最も大金持ちのジェフ・ベゾスも無職の人も平等の扱いである。
この部分だけを取り上げると、「最低賃金を時給15ドルに引き上げる」ことを政策の看板にしてきたバーニー・サンダースよりもヤングのほうが左よりの社会主義者のようなイメージを与えるかもしれない。しかし、ヤングは伝統的な「社会主義者」のカテゴリに属する候補ではないし、そもそも「右か左か」という決めつけが間違いだと考えている。
ブラウン大学卒業後にコロンビア大学の法学大学院を卒業したヤングは25歳で最初の会社を起業して以来いくつものテクノロジーと教育関係の会社を設立あるいは経営してきた。そして、2011年に非営利団体「Venture for America」を創設し、経済成長に取り残されたアメリカの中西部を中心に若者の起業を助けてきた。
そんなヤングは根本的には自由主義者であり資本主義者なのだが、ビジネスマンとして、2人の息子を持つ父親としてアメリカの現状を見ているうちに危機感を覚えるようになった。最先端のテクノロジーとビジネスを知る彼が冷静な分析をし、深く考えた末に人のウェルビーイング(福利と幸福)と充足感に対応する新しい形の資本主義である「ヒューマン・キャピタリズム」という政治信念にたどり着いた。
アンドリュー・ヤングが2018年4月に刊行した『The War on Normal People(普通の人々に対する戦争)』を読むと、彼がこの信念に到達した思考回路がよく理解できる。
この本の副題である「 The Truth About America's Disappearing Jobs and Why Universal Basic Income Is Our Future(アメリカで消えつつある職についての真実と、ユニバーサル・ベーシック・インカムこそが我々の将来である理由)」で想像できるように、ヤングはまずアメリカで仕事が消える未来を数字を使ってシビアに描いている。
アメリカの政治家は口癖のように「私は職を沢山作る」と約束する。だが、どんなにあがいても、AIが多くの一般人の仕事を奪う未来を変えることはできない。AIに仕事を奪われても、他の仕事に就けばいいと思うかもしれない。だが、テクノロジーの進化によって新たに作られた仕事には特別な知識やスキルが必要であり、AIに仕事を奪われた人たちが簡単に移行できるようなものではない。
『ヒルビリー・エレジー』で描かれたラストベルトの白人の絶望がそれであり、ヘロイン依存症や自殺の増加というアメリカの社会問題である。国が何の対策を取らなかった場合には、ラストベルトでのその絶望は全米に広がることになる。
これを肌感覚で知っているのは、政治家ではなくヤングたち起業家だ。起業家らはAIがスーパーマーケットでレジの仕事をすでに奪っている現状と、トラック運転手の仕事がなくなる未来を知っているし、それが全米に与える恐ろしい影響も鮮やかに予想している。だから、イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグがUBIの支持者だというは決して不思議なことではない。
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