コラム

完璧ではないフェミニストたちの葛藤

2018年05月22日(火)19時15分

著名フェミニストのステイネムは2013年に大統領自由勲章を受章した Larry Downing-REUTERS

<重要なことを成し遂げるためには小さな嘘や犠牲は許されるのか? 現実社会の困難に直面して葛藤するフェミニスト第一世代>

2016年の大統領選挙の結果は、直接的にも間接的にもアメリカの出版業界に大きな影響を与えている。

女性蔑視のミソジニストであることを隠そうともしないトランプの勝利により、かえって女性たちが抗議デモや「#MeToo」などで抵抗するようになっている。それについてはニューズウィークの記事でも触れたが、フェミニズムをテーマにした小説も続けざまに出版され、ベストセラーになっている。

ひとつは、女性の抗議デモや「#MeToo」運動を予言したような『The Power』だ。イギリス人作家の作品だが、アメリカでも大ベストセラーになった。

メグ・ウォリッツァーの『The Female Persuasion』もフェミニズムをテーマにしているが、男女の力関係が逆転して女性が残虐な報復をする『The Power』とは内容もトーンも異なる。

『The Female Persuasion』は、「将来なにかを成し遂げる」夢を抱いて育った少女と、彼女の人生を変えたカリスマ的なフェミニストを描いているが、「フェミニスト小説」である前に、「人の生きざまを描いたドラマ」だ。

労働者階級の町で生まれたGreer(グリーア)は才能も野心もある少女だったが、ヒッピーで放任主義の両親は娘にまったく無関心だった。幼なじみの親友でボーイフレンドのCory(コリー)と同じ大学に進学する計画を立て、どちらもイェール大学に合格したにもかかわらず、親が学費免除の書類をいい加減に記入したおかげでグリーアはイェール入学に行けなくなってしまう。

学費全額免除で行くことになった二流大学で意欲をなくしかけていたグリーアだが、有名なフェミニストFaith (フェイス)の講演を聞き、再び野心を抱くようになった。70年代にフェミニズム雑誌『ブルーマー』を刊行したフェイスは、かつてはグロリア・ステイネムのようなフェミニズムのアイコンだった。

グリーアにフェイスのことを教えたのはもともと親友のZee(ジー)だった。レズビアンで社会運動家のジーは、フェイスのような生き方を夢見ていたが、フェイスが関心を見せたのはグリーアのほうだった。

大学卒業後にグリーアはフェイスにコンタクトを取り、『ブルーマー』の面接にこぎつけるが、その日に雑誌は廃刊になる。だが、フェイスは著名なビリオネアの出資でLoci(ローサイ)という女性のためのフォーラムを設立し、グリーアはそこで働くことになる。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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