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移民の国アメリカの混迷するアイデンティティを描くサルマン・ラシュディの新作
虚構と現実が入り交じるラシュディ独自のマジックリアリズムはこの新作でも活かされている。ロシア民話から雨月物語の幽霊まで世界中の歴史、伝説、民話、映画、小説がトリビアのように登場する豪華絢爛な文章はときに野卑になるものの心地よく、15コースの贅沢なディナーを食べているような満足感を与えてくれる。
しかし、この快楽が逸楽になり、満腹すぎて耽溺に感じるときもある。
むろん、ラシュディのことだから、新作にも社会政治的な要素が盛り込まれている。
オバマ政権の8年間に起こるゴールデン家のドラマの背景には、アメリカの不穏な未来を予告する「ジョーカー」が蠢いている。ジョーカーの発言が大統領選挙中のトランプの発言そのままなので、誰のことかは明白だ。わざわざ緑色の髪のジョーカーにしたことに首を傾げたが、本人の名前を使ってトランプに満足感を与えたくなかったのかもしれない。
大統領選の投票日を寸前に控えたナレーター役のルネはこう悩む。
「ジョーカーが王になり、雌コウモリが牢屋に放り込まれたとしたら、それは何を意味するのか?(中略)僕は疲労困憊すると同時に不安に陥っていた。自分の国についての僕の考え方は間違っていたかもしれない。外界から隔離された狭い世界で育ったために物事が見えていないのかも。勝つためには十分ではないのかも。最悪のことが起こったとしたら、空から輝きが消え去ったとしたら、いったい何にどんな意味があるというのか? もし、嘘、中傷、醜さが......醜さがアメリカの顔になったとしたら。僕のストーリーにどんな意義があるのか? 僕の人生、僕の仕事、メイフラワー号の家族と(アメリカが仮面を取り払うタイミングにちょうど間に合い)誇りを持って帰化宣言をしたばかりの新旧アメリカ人のストーリーにどんな意味があるのか」
【参考記事】トランプ政権下でベストセラーになるディストピア小説
緑色の髪の「ジョーカー」(トランプ)と彼が仮面を取り払ったアメリカの醜い顔に対するルネの憤りと絶望感は、直接的すぎて、効果的に表現されているとはいえない。彼に共感する読者はすでに同じ政治的立場を持つものだろうし、そうでない読者は「高圧的なリベラルらしい理解」と辟易するだけだろう。皮肉にも、「外界から隔離された狭い場所で生きてきた(life in the bubble)」というルネの分析は作者のラシュディにもあてはまっている。
とはいえ、決して保守を一方的に批判する小説ではない。男性から女性へのトランスジェンダーを差別するレズビアン過激派TERFの話題など、リベラルの間でも存在する揉め事も取り入れている。
『The Golden House』は、ラシュディの代表作として残る大作ではない。だが、移民一家の壮大なストーリーを通して、「混乱する現代アメリカの顔」を描いたところにこの小説の歴史的な価値がある。
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