コラム

企業を成長させる最高のマネジメントは「Radical Candor(徹底した率直さ)」

2017年08月08日(火)15時30分

実際に「徹底して率直」になることは難しい mediaphotos/iStrock.

<企業への忠誠心がほとんどないミレニアル世代の才能を開花させるには、遠慮しないで相手の問題点を率直に伝える「Radical Candor」こそ有効>

アメリカの、特にIT業界では「企業文化(Corporate culture)」という言葉が目に付く。だがメディアで取り上げられるのが、社内フィットネスセンター、無料グルメ・ランチ、無料ヨガ教室といったトピックなので、ただの浅はかな流行のような印象を与えがちだ。

だが、それは誤解だ。

常に競合を視野に入れて成長を続けなければならないIT企業にとって、競合よりも優秀な人材を確保するのは死活問題だ。「企業文化」はそのためにある。

最近になって「企業文化」が重視されるようになったのには、社会的な変化が影響している。

アメリカでも、1960~80年代くらいまでは、大卒のエリートにとって「大企業就職」と「終身雇用」が常識だった。当時は、大企業で平社員から社長まで上り詰めるのが典型的なアメリカンドリームだったのだが、「ミレニアル世代」のアメリカの若者は違う。

大学卒業後、必ずしも大企業に就職したいとは思わない。そして、企業への忠誠心もほとんどない。一カ所に落ち着くつもりはなく、もっと良い場所があれば、迷わず転職する。

こういった特徴を持つミレニアル世代の人材は、獲得するだけでは足りない。会社にとどまってもらい、才能を最大限に発揮してもらえるよう努力しないと、逃げられてしまう。

だからこそ、「企業文化」が重要なのであり、なかでも部下やチームを管理する「マネジメント」が注視されているのだ。だが、ミレニアル世代の超優秀な人材は、従来の「上司」では管理できない。

【参考記事】日本の先進国陥落は間近、人口減少を前に成功体験を捨てよ

その部分にフォーカスを絞ったのが、本書『Radical Candor』である。「Be a Kick-Ass Boss Without Losing Your Humanity」と副題にあるように、古いタイプの「上司」ではなく、「思いやり」という人間性を失わずして、皆から憧れられるようなパワフルで素晴らしい「ボス」になる方法が書いてある。

著者のキム・スコットは、プリンストン大学とハーバード大学ビジネススクールで学んだ後、モスクワでダイヤモンド加工工場を開設したり、コソボの小児科医院を管理したりしたユニークな経歴を持つ。その後、アップルやグーグルなどシリコンバレーの代表的な企業で管理職を体験し、起業して失敗も体験し、DropboxやTwitterなどのシリコンバレーのCEOの指導をするようになった。

キムは、そんな体験を活かしてマネジメントのコーチングをする会社Candor, Inc.を創業した。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story