大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「ボス」になれないことだ
巨額の金を稼ぐ「チーム」のボスとして、野球以外の能力も求められる(4月12日、パドレス戦で本塁打を放ち塁を回る大谷選手) JAYNE KAMIN-ONCEA/GETTY IMAGES
<日本人は欧米などと違い、人を雇って命令するのが苦手。だが今後、家事や介護の外注が増えることを考えれば、大谷選手が元通訳にだまされた件は他人事ではない>
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳による違法賭博と窃盗容疑のニュースを知り、元通訳が大谷選手の銀行口座に自由にアクセスできていたことには驚いた。元通訳の工作もあったにせよ、それだけ大谷が彼に絶大な信頼を寄せていたということでもある。同時に、これを大谷の純真無垢さの表れと考える日本人が多いことにも驚く。アメリカでも同情的な声はあるが、大谷は間が抜けていた、というのが大方の本音ではないだろうか。
中規模企業くらいの金額を稼ぎ出す彼は、野球選手であると同時に自身の資産(金銭だけでなく、心身やパブリックイメージ、プライバシーなど)を守るため代理人や会計士、通訳を雇う、いわばチームのボスであるはずだ。それが通訳に手玉に取られていたとなると、同情されたとしてもボスとしては失格。少なくとも日本以外ではそうだ。
欧米や私の出身国イランは日本以上に序列に厳しい。ボスとメンバー、客とサービス提供者はフレンドリーに見えても、その後ろに強固な序列があり、越えてはいけない一線がある。ボスはメンバーと友達にならないし、客は神ではないが友達でもない。厳しくも良いボスでないと尊敬されない。
日本人はボスになることが苦手だ。会社の中では上司として役割の範囲内で部下を管理できても、組織を一歩出ると、個人や家庭として他人を雇うことがうまくない。日本は戦後長らく格差の少ない社会だとされてきたからか、あるいは料理・掃除・子育ては専業主婦の妻がやるという時代が長かったからか、家庭で他人を働かせる光景が一般的ではなく、特別な大金持ちがやる贅沢という認識がいまだにある。
海外では一般家庭でも人を雇うのが普通
日本を一歩出ると、アジア諸国や欧米では家の掃除や子どもの世話のために他人を雇うのは普通のことだ。
シンガポールでは外国人家事労働者の地位が低く問題になっているが、そのくらい一般家庭に家事労働のアウトソーシングが浸透している。親が人を使うのを見て育った人は、他人を使うことに慣れている。翻って日本で人を使うとなると、雇い主のほうが緊張してしまい、お手伝いさんが来る前に家をきれいにしてしまう、という笑い話を聞く。
だが日本に長く住む私には、他人を家に入れることや指示を出し評価することに気後れがするという気持ちも理解できる。高級住宅地の立派な家に住む大物芸能人夫婦でも、家事は妻が一手に引き受け、掃除や料理をSNSで自慢する。日本人メジャーリーガーの伴侶もどうやら同様で、同僚選手の妻から夫の食事は料理人に任せて球場に来て応援しなさいと叱られるという。そのくらい日本人は他人を雇うことが苦手だ。