コラム

外国人犯罪の解決には外国人が必要──日本人が知らない司法通訳の世界

2022年11月30日(水)20時50分
周 来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)

理由は2つある。

1つ目は2006年の入管法改正だ。

それまでは有罪となり強制送還されても、日本に舞い戻り窃盗を繰り返す不良中国人が多かった。しかし法改正で外国人に指紋と顔写真の提出が義務付けられることになったため、中国人の犯罪が減ると予測した。

もう1つは、作家・講師として「ご活躍中」の元警察官がある新聞紙面上で発表したコメントである。

交番勤務から通訳捜査官になったというこの人物、「なぜ高い金を払って犯罪者の同胞を儲けさせているのか」とのたまったのだ。外国籍の司法通訳は税金の無駄遣いと言いたいわけだが、これには腹が立ち、もう潮時だと思うきっかけになった。

司法通訳は大変な仕事だ。容疑者から「うまいこと警察に言ってくれ」と言われることもあれば、同胞のコミュニティー内で「警察の犬」と中傷されることもある。

しかし先にも書いたように、外国人犯罪をスムーズに解決するには、司法通訳の力が欠かせない。警察内部の通訳は人数もスキルも足りておらず、民間の司法通訳、特にその国出身の通訳なくしては対応し切れない場面が多いのだ。

その活躍で、容疑者を自白させたり、重要な情報をイチ早く引き出せたりすることもある。税金の無駄遣いどころか、むしろ節税である。

仕事の性質上、現役の司法通訳がメディアで声を上げることはめったにない。

だからこそ、私は彼らにエールを送りたいし、外国人犯罪を憂うと同時に、その陰で人知れず奮闘している彼らの存在を日本の皆さんに知ってもらいたいと願っている。


Zhou_Profile.jpg周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院修了。通訳・翻訳の派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレント、YouTuber(番組名「周来友の人生相談バカ一代」)としても活動。

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