コラム

日本人も中国人も対中ODAを誤解してきた

2022年05月06日(金)16時20分
周 来友(しゅう・らいゆう)
中日友好病院

日本のODAで北京に建設された中日友好病院 VISUAL CHINA GROUP/GETTY IMAGES

<40年以上続いた日本の対中国ODAが終了した。日本は戦争の贖罪のためにODAを提供していたと、中国では感謝の気持ちが薄いが、日本政府の姿勢にも問題があったと思う>

3月末、1979年から40年以上にわたって続いた日本の対中国ODA(政府開発援助)が終了した。

中国には「飲水思源(水を飲む際には井戸を掘った人を忘れるな)」という言葉があり、個人的には井戸を掘ってくれた日本のことを忘れてはならないと思う。ただ、残念ながら事はそう単純ではない。

1979年といえば、大平正芳内閣の時代。大平元首相の孫である友人の森田光一氏によると、首相は当時、娘婿で元運輸大臣の森田一に「対中ODAには戦争の償いという意味合いがあり、中国が戦争賠償を放棄する代わりに日本が経済援助をするものである。いずれ中国は経済大国となり、日本を凌駕するだろう。そうなれば日中外交は相当難しくなるよ。日本はその覚悟を持って支援しなければならない」と話したという。

大平元首相の先見の明が感じられるエピソードだ。

港や発電施設、空港、地下鉄、病院など、多くのインフラが日本の支援によって整備されていった。なかでも当時中国で話題となったのが、1984年、北京に建設された中日友好病院(写真)だ。

約165億円の資金が投じられ、一流の医療器材が導入された。医療サービスも日本式だった。先進国の医療機関のレベルの高さを目の当たりにし、中国人は皆一様に驚愕した。

ほかにも、上海の宝山製鉄所や重慶のモノレールなど、日本のODAによって造られた設備やインフラは枚挙にいとまがない。箱ものに限らず、1990年代には中国のポリオ撲滅計画に7億円相当が供与されるなど、医療援助も度々行われた。

大平元首相の予言どおり、中国は飛躍的な成長を遂げた。2010年に世界第2位の経済大国となっても、中国自身がアフリカに戦略的な開発援助を行うようになっても、日本からのODAは継続された。

それでも中国国内では、日本から支援を受けている事実が積極的に報じられなかった。中国に追い抜かれた上、感謝もされないのだから、日本側も面白くないだろう。

日本政府は対中ODAはその役割を終えたとして、そのうちの「無償資金協力」を2006年に、低利・長期でお金を貸し出す「円借款」を2007年に打ち切った。残っていた「技術支援」も今年で終わりだ。

ただ、私は中国だけでなく日本政府の姿勢にも疑問を感じていた。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story