国民の「安心」のため外国人を締め出す政府は、むしろ「不安」を拡散している
AP/AFLO
<オミクロン株の対策として根拠の乏しい「外国人の入国禁止」する政府は、「安心」を強調し過ぎて逆に人々を不安にさせる>
約20年前から、フランスのマスコミの特派員として日本の政治ニュースを担当している私だが、いまだに驚くことがある。日本の政治家の演説や記者会見の内容を分析すると、「安心」という言葉が必ず出ることだ。何か問題が起きたら、政府はその問題に直接対応することよりも、その問題によって国民の不安が起こらないことを重視し、国民を安心させるための発言をする。
自民党と公明党の政権だけでなく、東日本大震災のときの民主党政権もそうだった。もちろん国民を安心させるのは大事なことだが、それは政策なのか。答えは「ノー」だ。本来は適切な政策が前提にあるべきで、政策の1つの成果として国民の安心があるはずだ。
逆に、国民を安心させることが目的なら、それは正しくない、適切でない、根拠のない政策につながる可能性がある。残念ながら安倍政権も、菅政権も、岸田政権も国民を安心させるために根拠が不透明の政策を実施しがちだ。分かりやすい例が、新型コロナウイルスの水際対策だろう。
オミクロン変異株が発見されて間もなく、日本政府は水際対策を強化した。それは当然のことだ。ただ、どうやって措置を強化したかが問題だ。
岸田文雄首相は11月29日午後、「最悪の事態を避けるために緊急避難的な予防措置として、外国人の入国は30日午前0時から全世界を対象に禁止する」と発表。外国人の新規入国を停止し、入国人数を減らそうとした。林芳正外相は30日の記者会見で岸田首相の発言を引用しながら、「国民の皆さんの不安を予防的に取り除くという観点も踏まえて、今回の対応がなされたと私も認識している」と述べた(写真は12月2日、成田国際空港に到着して検疫を待つ人々)。
国民は安心してもウイルスは「入国」した
問題は外国人の入国を禁止しても、国民を安心させても、ウイルスが無断で「入国」したこと。科学的根拠の乏しい政策だから当然だろう。日本人の入国を認めるのに、外国人の入国や再入国を禁止するのは間違いだ。PCR検査を繰り返し、ウイルスのゲノム解析をして、長期間の隔離措置を取るほうが確実に感染拡大を防ぐことができる。
確かにそうした科学的な政策を説明しても、国民はすぐには安心しないだろう。でも国民に分かりやすい、受け入れやすい政策を重視するのは政治的な「デマゴギー」だ。根拠がない公約や政策に成果があると強調するのはデマゴギーにほかならない。
日本で「デマ」という言葉は「嘘」という意味で使われているが、デマゴギーは必ずしも嘘だけではない。デマゴギーは聞く側(国民)が望んでいることと、政治家が言うことが一致するもの。そこに根拠があるか、実現ができるかは別の話だ。