コラム

なぜ日本はオウム裁判を録画しなかった? フランス人が感じる不思議

2021年09月22日(水)11時42分
西村カリン
松本智津夫逮捕

逮捕された松本智津夫を乗せた警察車両(1995年5月16日) MASAHARU HATANO-REUTERS

<フランスでは2015年パリ同時多発テロの裁判が始まったが、多数の傍聴者を収容できる法廷が新設され、裁判の様子も撮影されている>

9月8日、フランスで「パリ同時多発テロ事件」の裁判が始まった。2015年11月13日の夜にパリ郊外の競技場、パリ中心部にあるバタクラン劇場と複数の飲食店で同時にテロが起きた。

過激派組織「イスラム国」(IS)の指示を受けた首謀者アブデルハミド・アバウドら10人のテロリストによる無差別テロ攻撃だった。130人が死亡し、300人以上がけがをしたフランス史上最大のテロだった。

実行犯のうち、9人は自爆などで死亡した。残る1人はベルギーで逮捕され、今回の被告となっている。他の19人の被告は武器入手など準備を担当した人たちで、そのうち国外にいる1人と、死亡したとみられる5人は欠席裁判を受ける(フランスの法律では欠席裁判が可能)。

犠牲者の遺族やけがをした人々だけではなく、全てのフランス人にとってとても重要な裁判だ。オウム真理教による地下鉄サリン事件の裁判などと同じように、何が起きたかを理解するために必要な、歴史に残る裁判だから日本のマスコミもきっと大きく報じるだろうと思っていた。

でも、期待したよりニュースは少なかった。外国におけるテロ裁判の仕組みを知るいい例なのに、とても残念だ。

550人収容の大規模法廷を建設

今回は関係者が多いため、普通の法廷では傍聴席が足りないと国は判断した。だから550人以上収容できる新しい大規模法廷が建設され、11カ所の傍聴室も用意された。

遺族、300人以上の弁護士や他の関係者で合計2000人が出席する(うち報道は58の外国のマスコミも含めて、141人)。トラウマを受けた遺族や巻き込まれた人は出席するとは限らないので、30分の時間差で法廷の音声を流す関係者向けネットラジオも開始された。

裁判中にフラッシュバックなどの恐怖を感じる証人や遺族がいると想定し、精神的サポートをするチームもある。裁判の様子は8台のカメラで撮影される。ただし主に研究と歴史的記録が目的で、特別な許可がない限り50年間は見ることができない(今まで14件の裁判が撮影対象となった)。こうした特別な措置が取られると知ったときには、とてもびっくりした。

私は何度も東京の裁判所で傍聴したことがあるが、いつも法廷が狭いと感じる。報道席に入れる外国人記者は最大で5人、国内マスコミは20~25人。殺人事件の裁判で残酷な場面の写真などを傍聴人に公開しないのも、「公判」と言えるのか疑問に思う。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

連邦政府の裁量的支出削減では債務問題は解決せず=F

ビジネス

米フォード、新車価格引き上げも トランプ氏の自動車

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 米関税で深刻な景気後退の

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ699ドル安 FRB議長が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story