コラム

東京五輪は「どんな感染状況でもやる」のか?

2021年02月24日(水)15時40分
西村カリン(ジャーナリスト)

パンデミック対策では科学に基づく判断をするべき Issei Kato-REUTERS

<現状を無視する姿勢は危険だけでなく、非民主主義的なやり方でもある>

私は2月2日に、自民党の本部で「スポーツ立国調査会・2020年オリンピック・パラリンピック東京大会実施本部合同会議役員幹部会」を取材した。非常に珍しいことに、自民党は外国人記者を積極的に呼んだ(にもかかわらず、取材した外国人記者は私だけだった)。

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)が挨拶し、こう述べた。「一番大きな問題は世論とコロナ。東京大会をやるかやらないかという議論ではなく、どうやるか。新しい五輪を考えよう。この困難な時期に日本が五輪をやり遂げたということが世界に向けての大きなメッセージになる」

これを聞いた私は改めて、どんな感染状況にあっても「やる」という立場はあり得るのかと疑問に思った。菅義偉首相やIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長も同じようなことを言い続けている。けれども、それは医療現場の人々に対する非常に失礼な表現だと私は思う。感染状況を無視するというのはあり得ない。

以前、私は菅首相の記者会見に参加したが質問できず、書面で質問したことがある。「感染状況をみると、『必ず開催します』『やり切る』とは言えないと思われます。最終決定権はIOCが持っていますが、首相としてなぜ国民に『全世界での感染状況をきちんと分析してIOCと共同で判断します』とはっきり言わないのでしょうか?」

政治家は現状に応じて動くべき

残念ながら、答えは「バッハ会長と昨年11月にお会いした際に、東京五輪を必ず実現し、今後とも緊密に協力していくことで一致しました」だった。この考え方がおかしいと思うのは私だけではない。

2月3日にタレントの田村淳さんが、任命されていた聖火ランナーを辞退するとYouTubeで発表した。前述の森会長の「理解不能」な発言を聞いて、辞退を決めたと説明している。とても理解できる判断だ。無責任な発言を繰り返す権力者に対し、田村さんはまさに「ストップ」と言ったわけだ。

権力者、特に政治家は事実を伝えるべきだし、状況に応じて動くべきだ。「どんな状況であってもこうする」という姿勢は非常に危険なだけでなく、非民主主義的なやり方だと思う。

今回のパンデミック(世界的大流行)で政治家は科学に基づく判断をすべきだし、判断の理由を説明しないといけない。また、政治家の仕事はいくつかのプランを考えることなので、プランAしかなく、プランBがないのは無責任だと言っても過言ではない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story