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ドイツは「緑の首相」を選ぶかもしれない
緑の政策
緑の党は、3月に選挙プログラムの草案を発表し、2030年までにCO2排出量を1990年比で55%から70%削減するという目標を掲げている。また、ドイツにおける原子力発電の終了時期を、現在の2038年ではなく、2030年に早めることを約束している。さらに、クルマを愛するドイツといえども、緑の党の下では、アウトバーンの最高速度は時速130kmに制限され、2030年以降は、内燃エンジン車が終焉することになる。
軍事・安全保障政策に関しては、党内の左派がまだ健在だ。緑の党の選挙綱領では、ドイツがNATO内で約束している2%の防衛費目標にも反対している。緑の党は、ドイツの軍隊に資金を提供することを約束しているが、コロナ禍による予算逼迫の中で、厳しい選択を迫られている。緑の党の閣僚たちは、例えばカーボン・ニュートラルやデジタル・トランスフォーメーション(DX)、社会福祉プログラムへの投資よりも軍事費を増やすことはないだろう。
緑の党が政権を取れば、独仏防衛協力の主要プロジェクトである独仏戦闘機の開発も終焉を迎えるかもしれない。ベアボックは、ドイツが核兵器禁止条約に署名すること、NATOの核共有プログラムから離脱すること、ドイツ国内からすべての米国製核兵器を撤退させることを要求している。彼女は3年前にこれらの立場を表明して以来、今も否定していない。これは、核抑止力なるものを、克服すべき「有害な男性原理」だとする「フェミニスト外交」を主張しているからだ。
緑の党とCDUとの連立課題
メルケル首相の後継候補として、CDU/CSU連立与党の保守系統一会派は、首相が属する与党CDUのアルミン・ラシェット党首(60)を選出した。ベアボックとラシェット首相候補の争いは、ドイツが必要としている外交・安全保障政策の有意義な議論につながるかもしれない。
ラシェット候補は、NATOの2%目標を強く支持し、核抑止力を信じている。一方、ベアボックは、緑の党がクレムリンや北京の脅威を鋭く認識していることと、安全保障・軍事政策のスタンスをどのようにCDUと折り合いをつけるのかが注目される。ベアボックは、ラシェット対して、軍縮を求め、ノルドストリーム2に対する弱腰姿勢を批判し、メルケル首相とは全く異なる中国政策の必要性などについて問いただすことができるだろう。
また、予想される公開討論では、司会者がベアボックとラシェットに、米国が核兵器による欧州の安全保障をもはや約束しないと決定する日に向けて、ドイツと欧州はどのように備えるべきかを迫るかもしれない。
16年間の野党活動を経て、緑の党はドイツの外交政策において優れた発言力を持つようになり、アイデアにも事欠くことはない。しかし、安全保障政策の中核となる部分では、ドイツの主要な同盟国とは大きくかけ離れている。
総選挙まで残り5ヶ月、すでにドイツの2州の議会選で与党CDUが大敗していることもあり、ドイツ国民が現状維持を貫くのか、それとも「緑」の政策を選択するのか?世界が注目する連邦議会選挙は、9月26日に実施される。
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