コラム

未来を見通すインパクト投資は、なぜテスラではなくトヨタを選んだのか?

2021年01月21日(木)19時15分

ドイツのタクシーはトヨタのハイブリッド・プリウスが目立っている。ベルリンでは1200台のプリウス・タクシーが走っている。©TOYOTA Europe

<オランダのグローバルなインパクト投資企業の投資基準にテスラが適合せず、彼らがトヨタを選んだことに欧州では注目が集まっている......>

「ハイブリッド」の再評価

大気汚染や温暖化への対策として、電気自動車(EV)への移行は喫緊な課題だと強調される。自動車大国ドイツでも、EVへのシフトは徐々にはじまっている。しかし、ドイツのタクシー車両の約60%はメルセデスで、2位のフォルクスワーゲンが約20%を占めているが、これらのクルマのほとんどは燃焼エンジン車である。

ベルリンでは、メルセデスに次いでトヨタが2位に続いている。市内7,500台のタクシーのうち1,200台がトヨタで、そのほとんどはハイブリッド・プリウスである。タクシーにおけるハイブリッド車の利点は明らかだ。燃焼エンジンと電気モーターの組み合わせは、特に都心部の走行でその強みを発揮する。

24年前、世界に先駆けて環境に配慮したプリウスを発売したトヨタは、これまでに1,500万台以上のハイブリッド車を販売し、現在、世界90か国で36の電動車両モデルを提供している。トヨタは、今後5年間で40台の新車またはアップグレード車を市場に投入する予定だ。

トヨタ・ヨーロッパは、今年度中に、ドイツで1,000台のプリウス・タクシーを販売することを目標にしている。ドイツの「Auto Bild」誌は、TOYOTA PRIUS + TAXIに「ベスト・カンパニーカー2019」特別賞を授与した。プリウスは、世界のタクシー事業の基準を設定したと評価されたのだ。環境保護の街ベルリンで、プリウスはタクシー以外でも支持されている。最近では、ベルリン警察もプリウスを採用している。

ギガファクトリー・ベルリン

2020年、EV世界最大手で知られるテスラが、ネバダ、ニューヨーク州バッファロー、上海に次ぐ4番目のギガ・ファクトリーをベルリン郊外に作ると発表した。以来、地元に大規模な雇用が生まれる期待と同時に、環境問題の火種も生じてきた。今、ベルリン近郊のグリュンハイデにあるギガ・ファクトリーでは、急ピッチに工事が進められている。2021年7月には生産を開始し、当初は7.000から8,000人、その後12,000人の従業員で年間最大50万台の車両を生産する予定だ。

takemura0121_1.jpg

ベルリンの南東、グリュンハイデの森林地区に建設中のテスラのギガファクトリー。2021年7月から生産を開始する予定だ。©Ralf Roletschek, CC BY-SA 1.0 fi

2020年1月初旬から承認手続きが開始され、ブランデンブルク州議会は、ベルリンのブランデンブルク新空港にも近い工場予定地の購入契約を承認した。テスラが購入した302ヘクタールにおよぶ林地の土地価格は、約4,100万ユーロ(約51億3,000万円)と言われている。

テスラは、計画されている工場建設費を11億ユーロ(約1,377億円)弱と見積もっていたが、CEOであるイーロン・マスクは、昨年12月、「ビジネスインサイダー」誌に「残念ながら予算は超過する」と語った。環境保全活動家や地域の住民は、工場が環境に悪影響を与えることを恐れている。彼らは工場での水の消費量が多すぎると考えており、保護動物が危険にさらされると心配している。

株式市場を見てみると、テスラがどれだけ自動車業界をかき乱しているかがわかる。テスラは現在、時価総額で1,600億ユーロ(約20兆1,613億円)以上の価値を持ち、フォルクスワーゲンとBMWの合計よりも価値があることになっている。テスラは昨年、全世界で37万台弱を販売したが、VWグループとBMWは、合わせて約1,350万台を販売していた。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story