コラム

未来を見通すインパクト投資は、なぜテスラではなくトヨタを選んだのか?

2021年01月21日(木)19時15分

インパクト投資はテスラではなくトヨタを選んだ

トリオドス投資マネージメント(Triodos Investment Management : TIM)は、オランダのザイストにあるグローバルなインパクト投資企業であり、世界をリードする持続可能な銀行であるトリオドス銀行の完全子会社だ。

トリオドス銀行は、1980年に設立され、倫理的な銀行業務を通じて、「すべての人の生活の質と人間の尊厳を保護・促進する社会の構築を支援する」ことを使命としている。人と環境の両方に利益をもたらす企業に資金を提供し、これには太陽エネルギー、有機農業、文化領域の企業が含まれている。2020年の時点で、トリオドス銀行には世界中に72万人の顧客がいる。

takemura0121_6.jpg

環境保護を使命とするトリオドス銀行は、オランダを拠点にベルギー、ドイツ、フランス、英国、スペインに支店がある。photo© Wouter Hagens、CC BY-SA 3.0

TIMは、トリオドス銀行のビジョンと使命に沿って、社会的かつ持続可能な経済変化を実現することを主な目的とした、インパクト投資の世界的なリーダーである。TIMは、すべてのEVメーカーに投資するわけではない。これには、いくつかの厳格な投資戦略要件が付随しているからだ。トリオドスの投資基準にテスラが適合せず、彼らがトヨタを選んだことに欧州では注目が集まっている。なぜそうなったのかを、TIMはウェブサイトで説明している。

TIMがトヨタに投資するという選択は、意外なことではなかった。それは、1997年に、すでに環境に優しいプリウスを発売したことに遡る。トヨタは、CO2削減の分野で広範囲にわたる計画を立てており、次世代のバッテリーにも多額の投資を行っている。循環経済への取り組みは、自動車メーカーにとって最も重要であり、製品が寿命に達したときのリサイクルについても慎重に検討されている。

トリオドスのインパクト・ファンドは、持続可能な未来への移行を望んでいる企業に注目する。だからこそ、イノベーションを手にしただけの企業を超えて、環境全体に目を向ける。トヨタの経営戦略は、イノベーションだけでなく、絶え間ない進化とチームワークによっても際立っていると評価された。これにより、トヨタは長年にわたって自動車業界で主導的な地位を維持してきた。これが、テスラの運営方法との重要な違いなのだ。

なぜテスラではないのか?

イーロン・マスクの会社は、世界で最も売れているモデル3を含むEVを販売し、TIMと一致する使命を持ち、EVを主流にするのに貢献した。そのテスラをTIMは評価している。

しかし、トリオドス・インパクト・ファンドがテスラに投資しなかった背景には、いくつかの懸念事項があるからだ。2018年、CEOのイーロン・マスクは23億ドル(約2,386億万)相当のストック・オプションを受け取った。これは莫大な責任リスクを生み出し、小規模株主の参加を制限することになった。こうしたテスラの管理と運用をめぐる問題が、TIMの評価を厳しいものにした。

takemura0121_4.jpg

ベルリンのショッピングモール内にあるテスラのショールーム

追い打ちをかけるように、米国証券取引委員会は、イーロン・マスクがソーシャルメディアを通じて非公開情報を共有していると非難した。これはテスラの株価に影響を及ぼしたと言われている。また、テスラは組合結成を希望する労働者を脅迫したとして非難され、テスラの自動車工場の労働条件には問題があるとも指摘されている。TIMはまた、テスラのサプライチェーンにおける厄介な問題を特定した。テスラは、児童労働で知られるコンゴの鉱山からコバルトを購入しているからだ。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、10月は5月以来の前月比マイナス 予

ワールド

マクロスコープ:円安・債券安、高市政権内で強まる警

ワールド

ABC放送免許剥奪、法的に不可能とFCC民主党委員

ワールド

アングル:EUの対中通商姿勢、ドイツの方針転換で強
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story