コラム

未来を見通すインパクト投資は、なぜテスラではなくトヨタを選んだのか?

2021年01月21日(木)19時15分

持続可能な開発目標

国連が策定した持続可能な開発目標(SDGs)は、TIMの中心的な評価軸でもある。2030年にむけたトヨタのグローバルな開発目標と貢献の可能性が評価された。トヨタはヨーロッパで300万台目のハイブリッド・モデルを販売し、世界中で1,500万台以上のハイブリッド車を販売してきた。同時に、トヨタは欧州委員会によって厳格に設定された95 g / kmのCO2目標の達成を実現できる唯一のメーカーであると期待されている。

トヨタはすでに、1億2,000万トン以上のCO2を節約し、さまざまなニーズを満たすために、フル・ハイブリッドに加え、プラグイン・ハイブリッド・モデル、全電気自動車、燃料電池車も提供している。CO2を排出しない電気自動車といえども、実際の製造過程や労働者の扱い、そしてサプライチェーンの問題などにより、テスラはトヨタの評価に及ばなかった。

テスラがプリウスの生産を終わらせない理由

テスラ車は人気があり、EVは必要とされている。しかし、プリウス(ハイブリッド車)が20年以上継続して生産されている事実を理解するには、全体を見る必要がある。

現時点で、すべてのクルマを速やかにEVに切り替えるのは不可能である。テスラや他の自動車メーカーが、EVを生産する需要は増加している。しかし、電気の車両だけでは、地球上の輸送ニーズの需要に追いつくことはできない。現状の電力網では、何百万ものEVをすべて同時に充電することはできないからだ。

私たちは、現在のエネルギー需要からあまりにも多くの電気を要求している。テスラのようなEVが、希望する結果を得るまでには、さらに数十年かかるかもしれない。ハイブリッド車は、私たちのエネルギー需要が増え続ける中で、今後も求められるだろう。これが、テスラがプリウスを終わらせない理由である。

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第2のベルリンと評されるジョージア(旧グルジア)の首都トビリシのタクシー。その9割はプリウスである。

ロボタクシーは実現するのか?

ベルリンのタクシードライバーは、「テスラは、僕らが自分で所有するクルマじゃない。テスラは将来、今のタクシー業界を排除する自動運転車を市場に送り出すだろう」と言った。

マスクはすでに明確なビジョンを提示している。自動運転技術を使用して、顧客に「ロボタクシー」機能を提供する未来の物語である。マスクは、平均的なテスラの所有者が、クルマを使用していないときに自動運転タクシーとして活用することで、年間3万ドルの収入が得られると主張している。

テスラの時価総額を急騰させているマスクの壮大なビジョンは、果たして現実となるのか?それは、プリウスを必要とする「環境」が続く限り、そして自動運転車が、ヒトの運転するクルマと混在する状況では、実現しないファンタジーなのかもしれない。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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