コラム

衰退するショッピングモール、再生を模索する欧州

2020年09月22日(火)13時30分

大型デパートの衰退

米国商務省のデータによれば、米国のデパートでの売上高は2005年の875億ドルから2019年には184億ドルにまで減少した。売上高が減少するにつれ、大手小売業者は収益性の低い地域から撤退している。米国の老舗デパート「メイシーズ」は、表向きはパンデミックの影響だが、125店を閉鎖し、2,000人の従業員を削減した。ドイツのデパートチェーンの「カールシュタット」(Galeria Karstadt Kaufhof)も、62の支店を閉鎖することを決定した。

変化への観点

ダウンタウンのショッピング街とは異なり、ショッピングモールの代用品を見つけることは難しい。ショッピングモールのビジネスモデルは、その構造体の運営と小規模店舗の共生による収益モデルに基づいているため、世界中のショッピングモールが失速する可能性もある。

都市のモールが市内中心部から消えると、多くのスペースが空くことになる。ベルリンは急激な人口流入やジェントリフィケーション(地域の高級化・都市の富裕化)の荒波に伴い、安価な住居が不足している。家賃の値上げを5年間凍結する法改正などで、ベルリン市はこれまでベルリンの魅力であった安価でクリエィティブな生活基盤を確保することに躍起となっている。

ベルリンの多くのショッピングモールは、都市の中心部に存在しており、既存のモールの解体は、非現実的なことのように思える。しかし、ベルリンのすべてのショッピングセンターの販売エリアを合計すると、約150ヘクタール(1.5平方km)になる。必死に住居スペースを探している新しい住民や、幼稚園や手工芸品ビジネス、中小企業やスタートアップ、アーティストの数の増加を考えると、ベルリンは死にかけているモールをオフィスや住居に変えるだけでなく、全く別な方法を考えるかもしれない。

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ライプツィガー通りに面したモール・オブ・ベルリンのファサード。2014年9月の開業当時から経営難が指摘されてきた。76,000m²の床面積に270の店舗を持つ。現在、テナントの撤退や入れ替わりが相次いでいる。

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ポツダム広場のショッピングモール「アルカデン(Arkaden)」。40,000 m²に120以上の専門店が入っていたが、現在、2022年の再建に向けた改装工事に着手している。テクノロジー、スポーツ、ファッション、ライフスタイル、エンターテインメントの体験型モールをめざしている。(C)Arkaden

ショッピングモールの再生

ショッピングモールは、変化する社会的、文化的ニーズに再び適応する必要がある。ショッピングモールの空間構成は、現代社会における相互交流、ネットワーク形成、共同開発パートナーシップ、オープンイノベーション、開発型コミュニティを促進するための理想的な場となるかもしれない。以下、ショッピングモール再生の3つのシナリオを想定してみよう。

シナリオ1:高級ブランド展開

すべてのショッピングモールが売上の減少に直面しているわけではない。特に、豊富な人口に支えられた高級ブランドを抱えるいわゆる「Aモール」(A,B,C,Dの階層があり、Dは死、Deathを示す)は、売上高が堅調であるという報告もある。

ハイエンドのテナントを持つAモールの見通しは、高級ホテルの誘致など、複合型施設を可能とさせる。オンラインでの販売が増えている一方で、高級ブランドはショールーム、ブランド認知、ブランドの灯台としてまだ実店舗に投資している。

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メルセデス・アリーナと併設して建造された「メルセデスプラッツ」。6500 m²の空間にシネコン、音楽ホール、店舗、レストラン、ボーリング場、ホテル、オフォススペースを備えている。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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