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お父さんはなぜ「プリン窃盗犯」扱いされたのか...3つの問題点を検証する

2025年4月7日(月)12時05分
印南敦史(作家、書評家)

性格や過去の事実に基づく推測の危険性

ある人が犯人であるという「あること」の証明は、その人が犯人であることを指し示せばこと足りる。しかし、自分が犯人ではないという「ないこと」の証明は、現実的に自分の行動経過(アリバイ)をすべて示すことができない以上、とても難しいことになる。

上記のプリンの場合なら、「今日はずっと仕事をしていた」などとアリバイを主張してもなお、「誰も見ていない早朝に食べてしまったのでは?」などと疑われるかもしれない。

あるいは「きっとお母さんが犯人だ」と第三者の犯行可能性を主張したとしても、お父さんにはお母さんの犯行であることを裏づける証拠を提示することは困難だろう。

推測を否定するだけの証拠が提示されないことによって、子どものお父さんに対する疑念は払拭されず、かえって強まっていくこともありうるのである。


   その2 性格や過去の事実に基づく推測の危険性
 二つ目に、前にもお父さんに盗み食いされたといういわゆる前科のような証拠は、悪性格証拠と呼ばれ、判断を誤らせる危険があるとされています。(58〜59ページより)

人間は、しばしば性格から他人の行動を予測する。例えば、「優しい人なら電車でお年寄りに席を譲るだろう」というように。

逆に、過去になんらかの罪を犯した人に対しては、「再び罪を犯しても不思議ではない」と考えてしまいがちでもある。そうした過去の悪い行動から、犯人と見なされてしまう危険性があるのだ。

しかし、過去に盗み食いをした人が再び盗み食いをするとは限らない。この事例の場合だと「お父さんは前にも勝手に私のプリンを食べたから今回も私のプリンを食べたのはお父さんのはずだ」とまでは言えないわけだ。最高裁判所の判例も、このような悪性格立証を制限しているという(最判平成24年9月7日刑集66巻9号907頁)。

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