大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍から脱走したインド人を待っていた「人間性のかけらもない世界」
ESCAPING THE RUSSIAN ARMY
やがて国境が近づくと、検問の数が増えてきた。最初ははどうにかやり過ごせたが、ついに4つ目の検問所で引っかかった。交通警察がパスポートを見せろと言う。
「パスポートを持っていないのは私だけだった」と、サルファラーズは振り返る。「すると警察は、『全員6カ月間の留置所入りだ』と脅してきた」
警官は取引を持ちかけてきた。1人100ユーロ(約1万6000円)、パスポートのないサルファラーズはさらに100ユーロを支払えば見逃してやると言う。要求どおりのカネを受け取ると、涼しい顔で通してくれた。
なんとかミンスクに到着したものの、サルファラーズは資金が底を突き、路上で物乞いをせざるを得なかった。夜は寝室が3つのアパートに22人で寝た。
運び屋は彼らを日常的に殴ったり、金品をゆすり取ったりした。性暴力を受ける女性もいた。人間性のかけらもない世界だったと、サルファラーズは語る。
24年秋、ウクライナ東部の大地が凍り始めると、ロシア軍に雇われたインド人の多くが、戦地を脱出して故郷に戻り始めた。そのために借金をして、いまだに返済に苦しむ者も少なくない。
サルファラーズは、ロシアの全面侵攻が始まってからちょうど2年後の24年2月24日、ミンスクのインド大使館で臨時パスポートを発行してもらい、インド行きの飛行機に乗ることができた。
その飛行機の車輪がコルカタの空港に接触したときの、例えようのない安堵感は、今も忘れられないと言う。
すぐに母親に電話した。「私の帰国を知って母は泣きだした。何度も神様に感謝していた」と、彼は言う。「私も涙が止まらなかった」

アマゾンに飛びます
2025年4月15日号(4月8日発売)は「トランプ関税大戦争」特集。同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか?
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら