韓国の政治は、なぜ「大混乱」を繰り返すのか...大統領の「帝王的」権力が変わらない理由
KOREA’S IMPERIAL PRESIDENCY

「内乱首魁(しゅかい)」容疑で検察に拘束されていた尹が3月8日に釈放され、支持者に手を振る CHUNG SUNG-JUN/GETTY IMAGES
<尹錫悦大統領による「自作自演クーデター」で韓国の人民は、大統領が一夜にして民主主義を転覆することすら可能だという現実を知った>
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、2021年に大統領選の党公認候補予備選でテレビ討論会に出演したとき、手のひらに「王」という文字を書いていたことが話題になった。
ところが、翌年大統領選に勝利して、大統領官邸を歴史ある青瓦台からソウル市内の別の場所に移すと発表したとき、その理由として挙げたのは、大統領の「帝王的権力」や、それが象徴する「近寄り難い」印象を払拭したいから、だった。
大統領官邸の移転は、費用が莫大に膨れ上がったほか、場所が突然変更になったり、セキュリティー上の問題が浮上したりと大騒動を巻き起こし、国民の大多数は反対した。それでも尹は押し切った。それは韓国の大統領に、まさに帝王的な権限が与えられているからだ。
アメリカの歴史家アーサー・シュレジンガーJr.は、1973年に『帝王的大統領制』(未邦訳)という本を書いたが、そこで描かれているリチャード・ニクソン大統領(当時)の特徴は、尹とよく似ている。
ニクソンと同じように、尹は「人民に権力を与える」のではなく、「大統領に権力を集めた」。メディアを毛嫌いし、行政府を政治色の強い側近で固めて、守秘義務を強いた。